FC2ブログ

ゲーテ 『西東詩集』 小牧健夫 訳 (岩波文庫)

「死して成れよのこの意(こころ)を
その身にさとり得ぬかぎり
汝は暗き地上にて
かなしき客にすぎざらん」

(ゲーテ 「めでたき憧れ」 より)


ゲーテ 
『西東詩集』 
小牧健夫 訳
 
岩波文庫 赤/32-407-3 


岩波書店 
1962年6月16日 第1刷発行
1987年11月5日 第3刷発行
480p 
文庫判 並装
定価700円


「WEST-ÖSTLICHER DIVAN
Johann Wolfgang von Goethe」




ゲーテ 西東詩集



目次:

詩人の巻
ハーフィスの巻
愛の巻
観照の巻
不興の巻
箴言の巻
ティームルの巻
ズライカの巻
酌人の巻
寓喩の巻
パルゼ人の巻
天国の巻
遺稿から

註記・論考 (春田伊久蔵 訳)

訳註
訳者解説

跋 (吹田順助)




◆本書より◆


「詩人の巻」より:

「逃走」より:

「北 西 南は砕け散り
王座は裂け 国々は搖らぐ
逃れよ 清き東方にて
族長の邦の大気を味わわんために
恋しつ 酒くみつ 歌うたいつ
きみは不老(キーゼル)の泉に若やがん

かしこ清く正しきところに
われは人類の
原始の深奥を窮めなん
そこにはひとびと今なお神より
天の教えを地の言葉にて受け
心を悩ますことなかりき」

「隊商とともにさすらいて
肩掛 珈琲 麝香を商(あきな)うときは
われも牧人の群に加わりて
オアシスに心なぐさめん
いかなる小径をも辿り行き
砂漠より町々に入らん

嶮しき岩道の登り降りに
ハーフィスよ おんみが歌に慰められん
導者 驢馬の高き背に騎(の)り
星々の夢をさまし
劫賊を驚かさんと
心たのしくおんみの歌をうたうとき」


「めでたき憧れ」:

「賢者のほかには何人にも語るな
大衆はすぐにも嘲るならんを
炎の死へとあこがるる
生きたるものをわれはたたえん

愛の夜々の涼しさに
汝は生れまた生みしが
静かにもゆる燭のともれば
汝はまだ知らぬ願いにおそわる

闇のくらき影のうちに
もはや汝は囚われじ
新しき希求(ねがい)汝を駆りて
より高き交合(まじらい)に赴かしむ

隔たりも汝は物ともせず
追わるるごとく飛びきたる
ついには光をこがれしたいて
蝶なる汝は焼けほろびぬ

死して成れよのこの意(こころ)を
その身にさとり得ぬかぎり
汝は暗き地上にて
かなしき客にすぎざらん」



「ハーフィスの巻」より:

「窮まりなく」より:

「終るときなきこと それぞおんみを偉大にし
始めるときなきこと そはおんみの宿業なり
おんみの歌は星みつる穹窿(おおぞら)のごとく循環し
初めと終りとはつねに同じくして
中央のもたらすものは明かに
終りにのこるものは初めにありしものなり」



「不興の巻」より:

「そを世にありふれし火花なりと
君たち思い誤るなかれ
測り知れぬ遠き彼方
星みつる空に
われはわが道を失わず
新たに生れしごとかりき」

「かくて道はいよいよ進み
道はいよいよ拡がりぬ
われらの旅は
永久の逃走のごとかり」

「超人をこの世から追放することの
できないのはきみたちも感じられるだろう」

「わたしは自由に生き
決して欺かれずに生きよう

というのは 人間は善良だが
一人のするとおりを
他人もしないですむのなら
もっと善いことであろう」

「或る人をわたしは愛する それは必要である
何人をもわたしは憎まない もし憎むべしとなら
それもわたしは厭いはしないが
わたしは群団として全体を憎もう」

「わが小唄はしのび音に呻く
「かつてかかりし こののちもしからん」と」

「メジュヌンというは――われはいうまじ
そが狂者を意味することを
されど汝われを咎むるな
われ己れをメジュヌンとたたうるとも」



「酌人の巻」より:

「われらはみんな酔わなければならぬ」

「酔いはふしぎな徳である
憂いのために心を労するのは生であるが
憂いを消すものは葡萄である」



「註記・論考」より:

「東方の詩人は無造作に、われわれを大地から天上にひきあげ、天上からまたもや下へと突きおとし、かと思うと、その反対をやったりする。ニザミは、腐った犬の死骸から、一つの道徳的な見かたをひっぱりだしてくる術を心得ており、そうした見かたに、われわれははっと驚かされ、同時に薫化される。

  世界を経めぐる主イエス
  たまたま市場のほとりにさしかかりぬ。
  路上、さる門前にひきよせて、
  死せる犬、うちすててあり。
  一群の人、死屍をかこみて立てり
  禿鷹の腐肉に集うがごと。
  一人の男いう、わが脳
  この悪臭に消し飛びぬ。
  次なる男いう、いうにやおよぶ、
  墓屑のもたらすは禍のみ。
  各人、それぞれに
  犬の死屍を罵りて、うたえり。
  巡りて、イエスの番となる。
  善心のイエス、つゆ罵らず
  仁慈の性よりいえり、
  「あの歯、真珠のごとく白し。」
  この言葉、並いる者の身を、
  煆かれし貝殻のごとくに熱くせり。

 慈愛深く機智に富んだ予言者が、彼独特のやりかたでいたわりと憐れみをもとめると、だれもがはっとする。彼はなんとあざやかに、ざわめく群集をわれにかえらせたことか! そして、忌みきらい呪うことを恥じて、いままで気のつかなかった長所に、感服してながめいらせ、どうかすると羨望の眼をさえ注がせる! 立ちならんでいる者はみな、いま、自分の歯列のことを考える。美しい歯はどこの国でも、わけても東国では、神の恵みとして大いによろこばれる。腐りつつある一生物が、のこった一つの完全なもののために、讃嘆といと敬虔な反省の対象になる。
 この寓詩の結びとなっている卓抜な譬喩は、必ずしもはっきりせず、ひしと迫ってこないから、これを具象化する労をとっておく。
 石灰層をもたない地方では、貝殻をある不可欠な建築材料の製造に利用しており、生貝を乾いた粗朶のあいだあいだへならべて層とし、燃えあがる熖で煆くのである。それを見ていると、次のような感懐が湧くのを制することができない。この生物は、ついさっきまでは海の中にいて元気に養分をとり、成長し、生存のおしなべての歓喜を自分流儀にたのしんでいたのに、いまは、焼かれて灰になってしまうならまだしも、姿はそっくり元のままで、全体が灼熱されて生命の根はすっかり断たれている! さらに、おりから日が暮れて暗くなりはじめたために、この生物の骸の真赤に煆けていることが、見ている人間の眼に見えてくることを想像して見よ。魂をひそかに深く苦悶させるこれ以上見事な光景を眼のまえにすることができるだろうか。この事実をじっさいに見たいとのぞむ者は、化学者に乞うて、牡蠣の殻を燐光状態に化してもらうがよい。それを見たならば、自信満々の自意識からいい気になっている最中に、不意に、正当な非難を浴びせられて全身に感じたたぎりたつ熱い感情を、これ以上恐ろしくいいあらわすことはできないことを、われわれとともにみとめるだろう。」



「訳者解説」より:

「Divan の成立はゲーテの東方への逃走である。東洋の研究にその端を発し、二回のライン旅行に由って成熟した。即ち、主として一八一四年及び一五年の両年に亘って作られた詩の集成が Divan であるが、是は単にこの時期の詩を一集に寄せ集めたと云うようなものでなく、一の不思議な、独特の世界を形作っているのである。この世界を流れる基調は東洋的精神、ゲーテの観た東洋的精神である。Divan の精神――東洋的と云う点に統一せられる――は次の諸点に要約されるであろう。
 一、凡ての現世の出来事を象徴的に見る
 二、あらゆるものに神を見る
 三、現世の生活を楽しむ喜びを肯定する
 四、素朴な、ささやかなものに価値を見出す」
















































関連記事
スポンサーサイト



プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。
歴史における自閉症の役割。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本