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ハーフィズ 『ハーフィズ詩集』 黒柳恒男 訳 (東洋文庫)

「ハーフィズよ、世を捨てるが楽しさの道
決して想うな、俗物どもの様子(さま)は楽しと」

(『ハーフィズ詩集』 より)


ハーフィズ 
『ハーフィズ詩集』 
黒柳恒男 訳
 
東洋文庫 299 


平凡社 
昭和51年12月17日 初版第1刷発行
iii 406p 口絵(モノクロ)2p
17.3×11.7cm 
角背クロス装上製本 機械函
定価1,000円
装幀: 原弘



本書「凡例」より:

「一 本書は Muḥammad Qazvīnī & Qāsim Ghanī 校訂『ハーフィズ詩集』 *Dīvān-e Khwājah Shams al-Dīn Muḥammad Ḥāfiẓ Shīrāzī (Tehran, 1941)を底本とし、ペルシアの著名な抒情詩人ハーフィズの抒情詩(ガザル)四九五首、断片詩(キタ)一首、マスナヴィー詩形二首(「小鹿の賦」「酌人の賦」)の全訳である。」


本文二段組。「解説」中に図版(モノクロ)1点。



ハーフィズ詩集 01



目次:

凡例

抒情詩(ガザル)
断片詩(キタ)
マスナヴィー詩

解説 (黒柳恒男)
 一 ハーフィズの生涯と時代
 二 抒情詩(ガザル)について
 三 ハーフィズの思想
 四 ハーフィズ研究




◆本書より◆


「一
おお酌人(サーキー)よ、酒杯をまわしてわれに授けよ(一)
愛は始めたやすく見えたが、あまたの困難が生じた
終には微風(そよかぜ)があの巻毛からもたらす香りに焦れ
麝香が薫(かお)るかの髪の縺(もつ)れにあまたの心が
 いかに痛んだか
わが恋人の館(二)になんの安らぎ、愉しみがあろう
いつも鈴が鳴り続く、荷物をたばねよと
酒場の老人(三)の命ならば、礼拝敷物(サッジャーデ)を酒にて染めよ
旅人(四)は道中と宿場の習慣(ならい)を識らずにおれぬゆえ
夜は暗く、波怖ろしく、渦潮はすさまじい
わが様子(さま)が(五)浜辺の気楽な人びとにどうして分ろう
わがことはすべて我が儘ゆえに不評に終った
あの秘密(六)がどうして隠される、集(つど)いにて語られよう
ハーフィズよ、安らぎを欲するなら
 彼女から身を隠すな
恋する人に逢ったら、世を捨て顧みるな


 一 このアラビア語の半句はウマイヤ朝第二代カリフ、ヤズィード・ビン・ムアーウィヤの詩の引用。シーア派の仇敵である彼の詩を引用したため、中世にハーフィズは一部のイラン人の非難の的になったという。
 二 この世を指す。
 三 神秘主義(スーフィズム)指導者を指す。その命令には絶対に服従せねばならぬの意。
 四 神秘主義の道を歩む修行者。
 五 恋に苦悶するわが様子を指す。
 六 わが恋の秘密。」


「三
かのシーラーズの乙女がわが心を受けるなら
その黒き黒子(ほくろ)に代えて私は授ける
 サマルカンドもブハーラーも
酌人(サーキー)よ、残りの酒を酌(く)め、天国にても求めえぬのは
ルクナバードの流れの岸とムサッラーの花園(一)
ああ、都を騒がす陽気で優美な歌姫(ルーリー)(二)たちは
トルコ人が食盆(ハーン)を奪うが如く
 わが心から忍耐を奪った
恋人の美にわれらの欠けた愛は要らぬ
麗しい面に脂粉や黒子(ほくろ)、描き眉が要ろうか
日に増すヨセフの美から、私は知る
愛が貞淑の帳(とばり)からズライハーを誘(いざな)い出すと(三)
罵られ、呪われても、私は祝福を捧げよう
苦(にが)い応(いら)えは甘く紅(くれない)の唇にこそふさわしい
好(よ)き人よ、忠告に耳を傾けよ、生命にもまして
幸運な若人(わこうど)たちが愛するは老いた賢者の金言
楽師や酒について語り、運命(さだめ)の秘密を探るな
この謎は知性では解けず、解いた者はない
ハーフィズよ、そなたは抒情詩(ガザル)を作り
 白珠(しらたま)を綴った、さあ、楽しく歌え
そなたの詩に大空は昴星(すばる)の頸飾りを撒き散らす


 一 ともにシーラーズ郊外にあった名所。
 二 イランの一部族で、歌舞音楽に優れている。
 三 美男子ヨセフを恋したエジプト王ポティファルの妻ズラーハーが貞淑の帳を破ったように、愛する者が美しいと、恋をする者は自制心を失うの意。」


「二三
道すがらいつもいだくはそなたの面影
そなたの髪の微風(そよかぜ)(一)はわが生命をつなぐ絆
反対者は恋を禁じているけれど
そなたの美貌はわが主張の正しさを示す
見よ、そなたのえくぼが何と語るか
「エジプトの千人のヨセフがわが凹みに落ちた」(二)
そなたの長い巻毛にわが手が届かぬなら
それはわが不運と貧しさの罪
特別の間(三)の門番にかく告げよ
「ある世捨て人が門辺で待っている」(四)
その姿が明らかにわが目から隠れても
わが落ち着いた心にはいつも見える
ハーフィズが乞うて戸を叩いたら開けよ
幾歳(いくとせ)も月の顔を恋い慕っている


 一 芳香を指す。
 二 ヨセフはカナンで一つの穴に落ちたが、ヨセフのような美男子が幾千人もそなたの凹み(えくぼ)に惹かれ恋に落ちたの意。
 三 恋人の心を指す。
 四 恋う者が結ばれるのを待っているの意。」


「三七
来たれ、希望(のぞみ)の宮居の土台はきわめて脆(もろ)い
酒を持ち来たれ、人生の礎(いしずえ)も宙に浮いている
蒼い天輪の下、浮世のいかなる色にも
染らない者に憧れる奴隷が私だ
昨夜酒場で酔いつぶれた時、目に見えぬ世界の
天使が私にどんな吉報を与えたか語ろうか
「おおシドラ(一)にとまる高邁な鷹よ
苦労に満ちるこの一隅(二)はそなたの巣ではない
天国の小塔からそなたを招く声がする
なぜそなたがこの罠(三)に陥ったか分らない」
私はそなたに忠告する、憶えて実行せよ
このことはわが老師から学んだもの
世を嘆かず、わが教訓(おしえ)を忘れるな
わが愛の至言は求道者から憶えたもの
「運命に満足し、眉をひそめるな
扉(四)はわれらの意のままには開かない
礎(もとい)が脆い世に約束の履行を求めるな
この老いた花嫁には千人の婿がいる(五)」
薔薇の微笑(ほほえみ)に誓いと誠実(まこと)の徴(しるし)はない
恋をする夜鶯(ブルブル)よ、嘆け、泣き叫ぶ時は今
拙(つたな)い詩人よ、ハーフィズをなぜ妬む
魅力と妙なる言葉は神からの贈物


 一 天国の樹。
 二 この世を指す。
 三 この世を指す。
 四 運命の扉。
 五 この世は浮気者、きまぐれの意。」


「四三
園の中庭は歓びを与え、友との交りは楽し
薔薇の季節(とき)は楽しく酒飲む者の時は楽し
微風(そよかぜ)でわが生命の嗅覚はいつも楽しみ
恋人たちの息の香りはまさに楽し
面紗(ヴェール)も解かず薔薇は旅立ちの支度を整えた(一)
夜鶯(ブルブル)よ嘆け、心痛む者の叫びは楽し
声妙なる鳥(二)に吉報あれ、恋路では
夜も眠らぬ人びとの嘆きは恋人の楽し
世の市場(バザール)に心楽しきことはない、あるならば
遊蕩(リンディ)の道と放浪の生活は楽し
自由なる百合(二)がわが耳にささやいた
この古い僧院では荷軽き者たちは楽し(三)
ハーフィズよ、世を捨てるが楽しさの道
決して想うな、俗物どもの様子(さま)は楽しと


 一 蕾のままで摘まれたの意。
 二 夜鶯を指す。
 三 自由なるはペルシア文学で百合と絲杉につけられる形容詞で、秋風や寒風に吹かれてもいつも緑の葉をつけているのでこの形容詞がつけられる。
 四 この世では世俗との関りが少ない者は楽しいの意。」



「解説」より:

「中世以来イランをはじめペルシア語文化圏において「ハーフィズ占い」が盛んに行われ、今日に至っている。これは自分が占ってもらいたいことを心に念じながら、又は唱えながら、ハーフィズ詩集を行き当りばったりに開いて、そこにある抒情詩によって占う方法である。彼の詩は一定の時と場所に限定されることなく、読む人の環境と知識、教養によって自由な解釈が下せるからこのような占いに用いることができるのであって、他の詩集では決してできないのである。
 次にハーフィズの信条、人生観について若干述べよう。彼は詩の中でたびたび「遊蕩児(リンド)」を自認し、またそれを誇っているので、まず彼が言う遊蕩児とは何かについて考えねばならない。何故ならこの語は日本語における放蕩者、道楽者とは同意でないからである。英語ではこの語は一般に libertine と訳されるが、リンdおの場合は第一義の放蕩者よりもむしろ第二義の宗教上の自由思想家、懐疑論者の意に近い。彼が生活信条とした遊蕩道(リンディー)は、彼の思想の大きな特色の一つである思想の自由に合致している。換言すれば遊蕩道は神秘主義道よりもはるかに幅広く、束縛されていない。確かに彼の詩には現世の全ての出来事、現象を象徴的に見て、あらゆるものに神を見るという神秘主義的傾向が強く作用しているが、これで全てを律することはできない。彼の思想の底流には神秘主義と遊蕩道が平行して流れているようであるが、さらに深く観ると両者にはかなりの共通点があり、必ずしも矛盾はない。」

















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