塚本邦雄 『味覚歳時記』 (角川選書)

「美しい金魚鉢をつい買ってしまったので、仕方なく金魚を飼い始めたなどという話はよくある。結果と原因が逆順に訪れる皮肉なめぐりあわせは、人生では意外に多く起るものだ。私が向日葵(ひまわり)の実を、まぢかに、手に取ってしげしげと見、あまつさえ、その実を炒って食べたのも、実は昭和三十年代の終りである。そして、それより遥かに早く、「道化師と道化師の妻向日葵の鉄漿(かね)色の果(み)をへだてて眠る」と、見て来たような嘘の歌を作って、来年こそは庭に向日葵を植え、立派な実をみのらせてみせようと考えてはいたのだ。」
(塚本邦雄 「向日葵」 より)


塚本邦雄 
『味覚歳時記
― 木の実・草の実篇』

角川選書 149 

角川書店
昭和59年8月25日初版発行
213p 
四六判 並装 カバー 
定価880円
装幀: 杉浦康平 
本文イラスト: 加藤俊彦



本書「跋」より:

「珍果・奇果・美果もさることながら、本来の木通の味わい、すなわち、古き佳き日の、野や山に、あるいは庶民の庭や畑に生えていた、ありふれた木草の実を、今一度クローズアップしてみようと、ここにとりあえず三十六種を選んで、ささやかな回想譜を添えてみた。想い出を共有する世代のみならず、全く時代を異にした今日の若人達にも語りかけたつもりである。この中、第一部の十二種については、昭和五十五年一月から十二月にわたって「ミセス」に連載した。(中略)他は、その時書き余したあまたの事項を選び上げて補足した。」


木の実・草の実をテーマにした各エッセイのそれぞれ冒頭に植物名漢字表記、学名、所属科名、短歌一首。テーマにそった詩歌の紹介や薀蓄の披露にとどまらず、毎回、御近所さんや通りすがりの人、会社の上司や少年時の友人などの登場人物があり、小説的展開もみせます。イラストの加藤俊彦氏は『うつつゆめもどき 毒舌いろは加留多』(創元社、1986年)や『詩歌博物誌 其之壱』(彌生書房、1992年)、『詩歌博物誌 其之弐』(彌生書房、1998年)の装画も担当されています。

新字・新かな。


塚本邦雄 味覚歳時記01


目次:

序 百果繚乱

第一部
木莓(きいちご)
郁李(にわうめ)
梅桃(ゆすらうめ)
帚木(ほうきぎ)
楊梅(やまもも)
胡頽子(ぐみ)
桑(くわ)
蔓茘枝(つるれいし)
蓮(はす)
郁子(むべ)
棗(なつめ)
榠櫨(かりん)

第二部
金柑(きんかん)
玫瑰(はまなす)
銀杏(ぎんなん)
無花果(いちじく)
石榴(ざくろ)
茘枝(れいし)
ピスタシオ
枸杞(くこ)
松(まつ)
椎(しい)
櫨子(しどみ)
山椒(さんしょう)

第三部
梔子(くちなし)
木通(あけび)
唐橘(からたち)
時計草(とけいそう)
青紫蘇(あおじそ)
麻(あさ)
酸漿(ほおずき)
岩梨(いわなし)
罌粟(けし)
零余子(むかご)
菱(ひし)
向日葵(ひまわり)

跋 実を尽してや恋いわたるべき



塚本邦雄 味覚歳時記03



◆本書より◆


「石榴」より:

「庭のある家を持つようになったら、植えたいと思っていた眷恋(けんれん)の植物は十指に余る。その中で最たるものは石榴(ざくろ)だった。そのくせ、曲りなりにも猫の額ほどの庭に、あまたの草木を植えさせていながら、いまだに、石榴は不在である。(中略)遠くから眺めて満たされるものが、この木にはあるのだろうか。」
「石榴のラテン名はプニカ・グラナトゥムと呼ばれる。プニカとはカルタゴの意、グラナトゥムは顆粒を表わす。原産地と形状を反映した面白い学名だ。その種名グラナトゥムからグレナディン・シロップに見る英名も発生するし、それに何よりも、スペイン語の「グラナダ」となる。アンダルシアの都グラナダはいわば「石榴市」であった。現在もこの市の紋章は石榴の実三つの意匠化で、フィレンツェが花中の花百合の市紋を持つことと、よき対照をなしている。さすがに石榴の都、晩春初夏の候に行けば到るところで血紅の花の火を見、晩夏初秋の頃は艶やかに実った姿と残り咲きの花と幼果がこもごも楽しめる。名だたるアルハンブラ宮殿の外苑も、ヘネラリッフェの庭も、石榴は処々に植えられている。カルタゴから来たと言われる石榴が、アルハンブラになお栄えている姿は、まさに歴史を目のあたりにすることでもあった。」
「「ざくろ」を「石榴」と表記するのは、紀元前二世紀、前漢の外交官張騫(ちょうけん)が、西域以西の国々からもたらした諸物中、安石国から到来の木で瘤(こぶ)のような実を結ぶものであったゆえに「安石榴」と名づけたことによる。従って「柘榴」は錯記と考えねばなるまい。後日、日本から椿(つばき)が唐に入った時、海の彼方から到来した石榴に似た美花という意味で「海石榴」と呼ぶ。それが逆輸入されて、万葉集に見る「海石榴市(つばいち)」となる。木扁に春をつばきとするのは国訓であって、中国では旃檀(せんだん)科の香木を指す。つばきの漢名は「山茶」、それも南部の産で、唐代、長安や洛陽ではこの花が見られなかった。文物百般、すべて唐渡りであった時代に、輸出は稀な例と思われる。それにしても、西方は砂漠伝いに、東方は海を越えて来た二つの植物の合体を「海石榴」が現しているとは。漢字表現というものは、まことにゆかしく、かつ恐ろしいものではある。」



塚本邦雄 味覚歳時記02


アマゾンマケプレで770円(送料込)でした。
「蓮よ石榴よけしのみよ 印: 塚」














































































































































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ひとでなしの猫

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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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