Richard Barber 『Bestiary』 (MS Bodley 764)

「There is an animal called the beaver, which is quite tame, whose testicles are excellent as medicine. The naturalists say of it that when it realises that hunters are pursuing it, it bites off its testicles and throws them down in front of the hunters, and thus takes flight and escapes.」


Richard Barber
『Bestiary
MS Bodley 764』


Boydell & Brewer, paperback edition 1999, reprinted 2010
205pp, 21.5x14cm, paperback
Printed in China
(First published 1992, the Folio Society
Reissued 1993, the Boydell Press)


「BESTIARY
Being an English version of the Bodleian Library, Oxford M.S. bodley 764 with all the original miniatures reproduced in facsimile. Translated and introduced by Richard Barber. The Boydell Press. Woodbridge. 1999」

 

bestiary 01


リチャード・バーバー訳ベスティアリー(動物寓意譚)。
本書は十三世紀前半にイギリスで作成されたラテン語写本(ボドリアン図書館所蔵。Bodley 764写本)の英訳で、全ての細密画がカラーで、原本と同じサイズとレイアウトで再現されています。
訳者リチャード・バーバーは、『アーサー王 その歴史と伝説』(高宮利行訳、東京書籍、1983年)で日本でもおなじみです。1941年英国エセックス生まれ。本書は「フォリオ・ソサエティ」から1992年に刊行された豪華本の廉価版で、バーバーが興した出版社ボイデル社と中世ルネッサンス文学・民俗学関係の出版社ブルーア社とが合併したボイデル&ブルーア社から刊行されています。

ペーパーバックですが、そでの部分が折り返してあるタイプ(フランス表紙)です。
本文アート紙、カラー図版135点。


荒俣宏『目玉と脳の大冒険』(1987年筑摩書房、1992年ちくま文庫)より:

「中世では(中略)ベスティアリーが聖書に次いで広く読まれ、多くの言語にも翻訳されたほか、ルネッサンスの(中略)アレゴリーの重要な源泉ともなった。(中略)〈旧博物学〉の体系と読んでもよいくらい、大きな影響を与えた書物なのである。」


ベスティアリーとは、動物について人間が想像した「ありそうなこと」の記述です。体裁としては、名前の由来、外見、生態、習性などが百科事典ふうに述べられていますが、実物を観察して得た知識というよりは、想像力の産物であって、馬や驢馬や犬や猫など身近な動物から、アイルランドやエチオピアなど遠国に棲息する動物の伝聞による叙述、文献を誤読することによって生まれたユニコーンやグリフォン、マンティコア、人魚などの実在しない動物も含まれていますが、様々な動物にまつわる民間伝承をマクラに、キリスト教のお説教につなげています。
ベスティアリーの起源は、アリストテレス『動物誌』、プリニウス『博物誌』などギリシア・ローマの思想家たちの著作に遡りますが、二~五世紀にアレクサンドリアで集成された『フィシオロゴス』(Physiologos 「博物学者」、キリスト教的に再定義された博物誌)のラテン語訳(『フィシオログス Physiologus』)を典拠として、ラバヌス・マウルス(八世紀末)やセビリアのイシドルス(六世紀)、あるいは『アイルランド地誌』などからも情報を摂取しつつ成立、中世文学の重要な一ジャンルを形成しています。


bestiary 09


Contents:

Introduction / Further reading / Preface

Lion / Lioness / Tiger / Panther / Antelope / Pard / Unicorn / Lynx / Gryphon / Elephant / Beaver / Ibex / Hyena / Bonnacon / Ape / Satyr / Deer / Tragelaphus / Goat / Wild goat / Monoceros / Bear / Leucrota / Crocodile / Manticore / Parander / Fox / Hare / Chameleon / Eale / Wolf / Dog / Sheep / Wether / Lamb / Kid / He-goat / Sow / Boar / Bullock / Ox / Buffalo / Cow / Calf / Camel / Ass / Wild ass / Dromedary / Horse / Mule / Badger / Cat / Mouse / Weasel / Mole / Dormouse / Hedgehog / Ant / Frog / Dea / Eagle / Barnacle / Osprey / Water-ouzel / Coot / Vulture / Crane / Parrot / Charadrius / Stork / Heron / Swan / Ibis / Ostrich / Coot / Jackdaw / Halcyon / Phoenix / Cinnomolgus / Harz bird / Hoopoe / Pelican / Night-owl / Screech-owl / Sirens / Partridge / Magpie / Sparrowhawk / Hawk / Ba / Nightingale / Raven / Crow / Dove / Turtle-dove / Swallow / Quail / Goose / Peacock / Screech-owl / Hoopoe / Cock / Hen / Duck / Sparrow / Kite / Bee / Perindens / Serpent / Dragon / Basilisk / Viper / Asp / Scitalis / Amphisbaena / Idrus / Boas / Iaculus / Siren / Seps / Dipsa / Lizard / Salamander / Saura / Newt / Snake / Scorpion / Horned Serpent / Worm / Fish / Whale / Serra / Dolphin



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落とし穴に羊を入れておくと雌ライオン(Lioness)を捕まえることができる。左下には餌を待つ仔ライオン(cubs)の姿が。


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豹(Panther)は口からいい匂いがするので動物たちが集まって来る。口から出る言葉によって人々を導くキリストになぞらえられています。


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一角獣(Unicorn)はとても素早く強いので捕獲は困難だが、一角獣の棲む森に処女を座らせておくと膝に乗って抱きついて眠ってしまうので簡単に捕まえることができる(これはキリストの受肉をあらわすと説かれています)。『フィシオログス』に由来するモチーフですが、『一角獣』(和泉雅人訳、河出書房新社、1996年)の著者R・R・ベーアは、インド起源であろうと推測しています。


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アンテロープ(Antelope)にはのこぎり状の角があって、大木を伐り倒すこともできる。聴覚がすぐれているので猟師は近づけない。喉が渇くとユーフラテス(Euphrates)川に水を飲みに行くが、そこにはハリネズミの木(hedgehog-bush)が生えていて、アンテロープは絡まり合った枝で遊んでいるうちに角がひっかかってしまい、いくらもがいても取れないので大きな声で鳴くので、聴きつけてやって来た猟師にいとも簡単に捕まってしまう。


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ビーバー(Beaver)の睾丸は薬として用いられる。自分の睾丸が猟師に狙われていることがわかると、ビーバーは自ら睾丸を噛み切って猟師に投げ与えて逃れる。次からは狙われても睾丸がない事を示せば猟師は立ち去ってゆく。ベスティアリーではキリストの教えに従って悪徳を断てば悪魔が離れていくことの喩えにされていますが、このモチーフは古代ギリシアのアイソポス(イソップ)寓話集にも見られ、そこでは「金のために襲われ、危険を脱するため、それを惜しまない人は賢い人です」という教訓が付けられています。


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サテュロス(Satyrs)。


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マンティコア(Manticore)は人面、獅子身、蠍のシッポを持つ。人肉を好んで食べる。


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野兎(Hare)。耳を中心に四羽のウサギが車輪状にデザインされています。ウサギまんじ。

バルトルシャイティス『幻想の中世 I』(西野嘉章訳、平凡社ライブラリー、1998年)には、このような「身体の一部を、あるいは一方に、あるいは他方に属するもののごとく見せるというやり方でもって、いくつかの像を一つにまとめ上げ」る表現技術で描かれた、ウサギはもちろん魚・馬・人体・人体パーツ(脚)などの作例が挙げられています。


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猫(Cat)はネズミを捕まえてくれるが、愛鳥にもちょっかいを出すのでやっかいです。背景の月と星は猫が夜の属性の動物であることを示しています。左下には暖炉の前で丸くなっている猫がいます。この項の記述に関してはかなり正確な観察に基いて書かれています。


bestiary 10


いもり(Newt)。



ベスティアリー研究サイト(英文):
The Medieval Bestiary - Animals in the Middle Ages


最後になりましたが、ヨーロッパにおける動物の寓意・象徴を知るための本として、ジャン=ポール・クレベール『動物シンボル事典』(竹内信夫ほか訳、大修館書店)を、
耳で聞くベスティアリーとして、古楽グループ「ラ・ルヴェルディ La Reverdie」のCD「ベスティアリウム Bestiarium」を、それぞれおすすめしたく思います。


La Reverdie - Ar bleizi-mor




































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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