寿岳文章 『和紙落葉抄』

壽岳文章 
『和紙落葉抄』


湯川書房 
昭和51年12月20日 初版発行
257p 
四六判 丸背紙装上製本 貼函 
定価2,000円
印刷: 精興社 
製本: 三水舎



和紙をめぐる随筆集。当然のことながら和紙で装幀されています。


寿岳文章 和紙落葉抄 01


帯文:

「著者が長年深い愛情を抱きつづけてきた和紙の抄造が日に日に衰退していく現況を慨嘆しつつもその変らぬ美しさ楽しさを語りかける待望の随筆集。」


寿岳文章 和紙落葉抄 02


目次:

和紙おちぼひろい
 一 播磨紙のふるさと
 二 横紙破り
 三 白紙の賛
 四 紙をひねる
 五 和紙と世相
 六 猿と紙漉き
 七 和紙と北原白秋
 八 技術の秘密
 九 『一壺亭茶話』の背景
 十 『譬喩尽』の中から
 十一 紙名を考える―諸口の場合―
 十二 紙漉歌をめぐる諸問題
 十三 檀紙今昔談
 十四 神曲と紙
和紙の歴史をたどる
民芸運動と和紙
文化財との関連における和紙
禅と紙
紙漉村今昔――幻想風に
九州の和紙
東北の紙
泉貨今昔談
和紙の将来
和紙歴史事典の構想



寿岳文章 和紙落葉抄 03



◆本書より◆


「「白紙の賛」について」より:

「何の変哲もないすき立ての白紙を、これにむかう者が何かの絵、何かの形に見立て、詩なり、歌なり、あるいは俳句なり標語なりを書きつけたのが、白紙の賛である。賛を読む者は自分自身の想像力を働かして、空白の世界に何とでもすきなように(中略)こころの筆でえがく。」
「小堀遠州の子と伝えられる大徳寺第八十四世江雲和尚の白紙賛に
  看々普賢銀世界
というのがある。白紙を一面の銀世界に見立て、花下、四頭の白象に乗る普賢菩薩を拈(ねん)じたイメージであろう。(中略)白紙は語らず、無碍自在な世界なのである。白紙を一条の滝と見立てて、「涼しさはたくひも更に夏山の峯よりおつる音無しの滝」と賛した大綱和尚その他、さすがに禅家には白紙の賛が多い。」



「和紙歴史事典の構想」より:

「一九二二年に発表されたT・S・エリオットの「荒地」を、日本の詩人や批評家が問題にし始めるのは、昭和となってからであるが、いまふりかえると、私自身のものの見方も考え方も、つねにこの詩の大きな投影のもとにあったことを、強く感ずる。「荒地」は、第一次世界戦争を一つの山とする二十世紀西欧文明の退廃が、主要なテーマとなっているけれども、そのまま大正・昭和期の日本にもあてはまったし、第二次世界戦争を経験した現在では、かけがえのないこの地球上のあらゆる地域に、エリオットのいう荒地化が認められるであろう。荒地化とは、物心の二つにわたり、伝統的な文化遺産が破壊され、それに代わる価値ある文化の創造されない状態をいう。」
「もともと私の和紙研究は、書物を構成する最も重要な素材としての紙への関心から始まった。」
「日中戦争の始まったのは昭和十二年の七月であるが、その年の十月から、昭和十五年の三月にかけて、秋・冬・春の三季に、私たち夫婦は、周到なプランにもとづき、紙をすく全国の村々へ旅した。農閑期を利用する製紙の実態調査と、その歴史的な背景のあとづけが主目的である。
 明治二十七年ごろには六万三千を数えたといわれるこれら半農半工的製紙戸数は、すでに三分の一以下に減ってはいたが、それでも、交通の便のわるい山村の片ほとりに、先祖からうけついだ昔ながらの技法で、(中略)黙々とていねいに紙をすく姿を見、天日に干しあげられたばりばりのすばらしい紙に接したときは、いつも私の心は躍った。退廃していない伝統の力のたくましさとたのもしさに打たれたからである。
 しかし、退廃が全く見られなかったわけではない。質よりも量に重きをおく能率万能主義の役人たちの、あやまった指導が浸透しているところでは、必ずといってよいほど、生産された紙は貧しく、力無く、みすぼらしかった。しかも正直な生産者たちは、これがよい紙だと信じ、少しも疑っていない。私は政治という名の悪に対し、腹の中がにえくりかえるような憤りを覚えた。
 戦前のこのあやまった指導方針を、何千倍にも増幅したのが、戦後の高度経済成長政策であろう。日本にかつてない豊かさがもたらされたと、この政策を推進する為政者たちは誇らしげにいう。私はそう思わぬ。エリオットの荒地的観点に立てば、精神にも自然にもかつて知らぬほどはなはだしい荒廃と貧困をもたらしたのが、この政策である。少なくとも和紙の伝統は、これの毒気をもろに受けて、いやしがたい損傷を被り、生産戸数も今や八百台を割ろうとする。」
「しかし、平均日本人のすべてが、今の為政者の言うままになるほどおろかであるとは信じたくないし、また信じられない。高度経済成長の虚像に魅せられている人びとも、おろかな夢からさめ、何が最も人間的なのかを悟り、価値ある伝統のよみがえる日もいつか来よう。」



寿岳文章 和紙落葉抄 04


























































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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