泉名月 『羽つき・手がら・鼓の緒』

「鏡花の話を私がききましたのは、鏡花の妻のすず夫人と、豊春の妻の私の母からです。」
(泉名月)


泉名月 
『羽つき・手がら・鼓の緒』


深夜叢書社 昭和57年1月15日印刷/同20日発行
64p 
21.5×19cm 角背布装上製本 貼函 
定価2,500円
装画・装幀: 鹿俣茂輔



著者・泉名月(いずみ・なつき)は1933(昭和8)年9月21日生、2008年7月6日逝去。泉鏡花の姪(鏡花の弟・斜汀こと豊春の子)で、十歳の時、泉家の養女になりました。鏡花は昭和14年9月7日逝去。父親の斜汀は昭和8年3月30日、名月が生まれる前に病死しています。
本書は絵本のような挿絵(モノクロ)入りのやや大判の本で、「鏡花の星」以外の文章は既刊の単行本『鬼ゆり』(學藝書林、昭和50年)にも収録されています。
鏡花の家族について書かれた「羽つき・手がら・鼓の緒」、鏡花のきらいなものづくし「雷・犬・ばい菌」、j鏡花のすきなものづくし「マヤ夫人様・兎の玩具・あつ燗」の三篇は「羽つき・手がら・鼓の緒」として「別冊現代詩手帖」昭和47年新年号に初出。
「鏡花の星」は「本の本」昭和51年1月号に初出。

正字・新かなづかいですが、字体に関しては、「氣」と「気」が混用されていたり、「實驗」とあるべきところが「實験」となっていたりして(著者の父の名「豊春」も「豐春」とあるべきでしょう)、わりといいかげんです。


泉名月 羽つき1


本体表紙には兎の絵が描かれた丸い紙が貼られています。


本書「表紙図について」(鹿俣茂輔)より:

「アポロによる宇宙飛行士の報告にはありませんでしたが、円い名月では時折兎が餅をついておるのを肉眼でも見ることが出来ます。(中略)表紙図は大正九年発行の伊藤忠太著(中略)『阿修羅帖』第二巻より抜萃加筆いたしました。」


泉名月 羽つき2


目次:
 
表紙図について (鹿俣茂輔)
 
羽つき・手がら・鼓の緒
雷・犬・ばい菌
マヤ夫人様・兎の玩具・あつ燗

鏡花の星
 
あとがき

 
 
泉名月 羽つき3



◆本書より◆

 
「羽つき・手がら・鼓の緒」より:

「■鏡花の母
 鏡花のおかあさんは、お能の大鼓の葛野流の家の娘さん。名前はすずさん。子どもの頃、江戸ですごされて、加賀金沢へいらしって、かんざしや帯止をつくる彫金師の清次さんのもとにお嫁にこられました。
 鏡花のおばあさんは、息子清次のお嫁さん、鏡花のおかあさんを、たいへん可愛がって、大事になさいました。」

「■羽つき
 おばあさんは鏡花のおかあさんを、こたつに当たりながら、羽つきをして遊ばせました」

「■手がら
 おばあさんは孫の鏡太郎と豊春に、お守り袋を縫ってくださいました。(中略)そのお守り袋にする布は、鏡花のおかあさんが髪に結んだ手がらでした。手がらというのは日本髪の後の束ねる所に結ぶ赤や桃や水色の、鹿子絞りや縮緬になっている絹のきれいな布です。」

「■鼓の緒
 鏡花のおかあさんが亡くなられてからです。
 おばあさんは虫干しをなさいました。部屋の鴨居から鴨居へ鼓の緒を渡して、おかあさんの振袖・小袖を掛けてほされました。おかあさんの振袖・小袖の間を、鏡太郎と豊春は、くぐったり、顔をだしたり、かくれたり、出たり入ったりして遊びました。」

「■うさくるしや
 鏡太郎と豊春は一緒に近くの神社へ遊びにゆきます。すると兄は弟についてくるなときつくとめて、兄だけがいなくなってしまいます。兄がどんどん回廊の奥へ入っていったら、障子の穴のあいているところがあって、そこから中をのぞいたら、姉さんかぶりをした女の人がいて、「うさくるしや」といったそうです。」

「■にゃあにゃ
 鏡花のおばあさんは孫のお嫁さんも可愛がりました。孫のお嫁さんというのは鏡花の妻のすず夫人のことです。鏡花のおかあさんもすず、鏡花の妻もすず、同じ名前です。
 おばあさんは孫のお嫁さんを「にゃあにゃ」とよびました。おばあさんはおそばが大好きで、鏡花からお小遣いをもらうと、「にゃあにゃ、おそばくいまっし」といって、ごちそうしてくださったそうです。」

 

「雷・犬・ばい菌」より:

「■ほこり
 鏡花はものすごい潔癖症だったそうです。番町の家の一階の茶の間の天井の、天井板と天井板のすき間には、白い細長く切った障子紙が、ぴったりとのりで張ってありました。食事をしている時に、二階のごみが一階の天井板のすき間から落ちるのを恐れたためというのです。」

「■春菊
 春菊については鏡花のおかあさんがこうおっしゃいました。春菊の莖には穴があいている。その穴があいている所に、はんみょうという毒蟲がたまごをうみつける。だから食べてはいけないと。」



「マヤ夫人様・兎の玩具・あつ燗」より:

「■お観音様
 鏡花は逗子岩殿寺のお観音様を信仰なさったとききました。岩殿寺の山道の途中で、鏡花は気高い美しい女の人とすれちがいにあいました。その女の人がお観音様の化身でいらっしゃったとはすず夫人からきいた話です。」

「■兎の玩具
 鏡花の家には、兎の玩具がたくさん集っていて、にぎやかでした。
 (中略)
 鏡花は酉年でした。自分の干支から数えて七番目のものをもつとその人のお守りになるのだそうで、鏡花のおかあさんが子どもの鏡花に掌中にのる水晶の兎をもたせてくださったのが、鏡花と兎の親身のはじまりです。」



「鏡花の星」より:

「鏡花の番町の家の格子戸を入って、障子を開けると、すぐ部屋の左側に、積み木を重ね合わせたような幾何模様の、緑色のカーテンがかかった、天井まである本棚があった。」
「鏡花がなぜ、きのこの本がほしかったのだろうかと『菌類』をあけてみる。きのこの、魂をもさそい出しそうな、微妙な色と、思い思いのおどけた形の面白さ。
 植物図鑑のふつうの植物は、芽を出す。莟がつく。花が咲く。葉が繁る。実がなる。日光を好み、日照る世界の住人たち。文章の上でも、もっとも美しいたとえに使われる。」
「きのこは山奥のしとしとした幽界のような、冥界のような所に出没するマカフシギなもの。日かげる世界の住人たちである。鏡花の表現の秘密の一端はこういう植物図鑑やきのこの本によりどころがあるのかもしれないと私は鏡花の蔵書を手にしてひそかに思ったりする。」
「文つづる家は、東側は黒い塀のお屋敷、南は壁でふさがっている。西は一坪半のせまい細長い庭をへだてて、隣家の二階の破目板が直立、北側も小さな路地があって隣家であった。夏、二階の書斎にさす西日をのぞいては、一年中、一日中薄暗い家であった。田舎のような大空はとても望むどころではない。しかし、番町の家には、天界、地界へ通じる抜け道が二か所あった。台所に天窓があって、綱を引くとカタリと廻って、空へ通じる四角な穴が屋根にあく。天窓からは宇宙の彼方までものぞけた。玄関は格子戸だから、天地人の夜昼の精気がすきまをことごとく吹き通る。」




「泉名月さん死去 随筆家

泉名月さん(いずみ・なつき=随筆家、泉鏡花のめい)6日午後11時5分、腎不全のため神奈川県逗子市の自宅で死去、74歳。愛知県出身。葬儀は近親者のみで執り行った。喪主はいとこ岡本卓三(おかもと・たくぞう)氏。
泉鏡花文学賞選考委員を務めていた。」

2008/07/11 19:35 【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/200807/CN2008071101000922.html



































































































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