土方巽 『美貌の青空』

「空の美貌を怖れて泣きし幼児期より泡立つ声のしたたるわたし」
(春日井建)


土方巽 
『美貌の青空』


筑摩書房 
1987年1月21日 初版第1刷発行
1991年11月10日 初版第4刷発行
252p 目次8p 
20.5×15.5cm 丸背紙装上製本 カバー 
定価3,200円
装幀: 吉岡実

「美貌の青空」栞 (6p):
大胆不敵(細江英公)/凝り性(三好豊一郎)/語り合い(大野一雄)



種村季弘による「編集後記」より:
 
「昭和六十一年三月九日は故土方巽の四十九日に当っていた。この日目黒のアスベスト館における法会の後、元藤燁子未亡人の提唱によって、吉岡実、三好豊一郎、澁澤龍彦、鶴岡善久、種村季弘による(仮称)遺稿編纂準備委員会が召集され、故人の一周忌を期して、公演パンフレット、雑誌等に生前発表されたメッセージ、短文、エッセイを一巻に編む計画が検討された。その結果成ったのが本書である。
 席上提案された基本事項としては、一、すでに単行本出版されている『病める舞姫』(白水社)は別として、湯川書房から小部数発行された『犬の静脈に嫉妬することから』はあらためて収録すること、二、とりあえず自筆によるものであることが確実な作品のみを収め、インタヴュー、座談会、対談等の筆記は別途に考えること、三、元藤燁子を含めた六名が各自具体的に編集発行までのパートを受持つこと、である。」



土方巽 美貌の青空 01


目次:

I
犬の静脈に嫉妬することから

II
静かなヒト
中の素材/素材
暗黒舞踊
刑務所へ
他人の作品
演劇のゲーム性
アジアの空と舞踏体験
猫の死骸よりも美しいものがある
肉体に眺められた肉体学
人を泣かせるようなからだの入れ換えが、私達の先祖から伝わっている。
遊びのレトリック
静かな家
包まれている病芯
匂いの抜けた花から
甘えたがっていた

III
アルトーのスリッパ
貧者の夏――西脇順三郎
線が線に似てくるとき――瀧口修造
言葉の輝く卵―吉岡実
内蔵の人――三好豊一郎
剛直な哀愁詩人――田村隆一
闇の中の電流――澁澤龍彦
結晶好きな赤子の顔――澁澤龍彦
突っ立ってる人――加藤郁乎
細江英公と私
祝杯――池田満寿夫
いろいろな顔がくるぶしの住処にかくれている――唐十郎
彼女の髪の空洞――篠原佳尾
原さんの影像展覧会――原栄三郎
夢の果実――金井美恵子
助けてもらった絵――田中岑
生まれてくる人形――土井典
均衡の一瞬

IV
鼻血――DANCE AVANT-GARDE
広告――元藤燁子
ブルース――藤井邦彦
森田真弘の作品
剥製の後頭部を持つ舞踏家に寄せる――笠井叡
ムッシュウ・オイカワと私――及川広信
天才論――石井満隆
神聖な柳腰――笠井叡
アスベスト館の妖精――芦川羊子
片原饅頭をメサッと割った時――高井富子
親愛なるシビレットC――大野一雄
爪の孤独――大野慶人
種無桃のマイム役者――ピエール・ビラン
舞踏家の婚礼によせて――大野一雄
天龍製機の足踏み脱穀機にまたがって――玉野黄市
暗黒舞踏の登場感覚――芦川羊子
北方舞踏派に七面鳥を贈る――ビショップ山田
木乃伊の舞踏――室伏鴻
同志の舞踏――中嶋夏
異形の変容――白虎社
世界一幸福な男――Butoh Festival '85 

*
初出および若干の註 (鶴岡善久)
土方巽年譜 (構成・アスベスト館)
編集後記 (種村季弘)



土方巽 美貌の青空 02



◆本書より◆


「犬の静脈に嫉妬することから」より:

「五体が満足でありながら、しかも、不具者でありたい、いっそのこと俺は不具者に生まれついていた方が良かったのだ、という願いを持つようになりますと、ようやく舞踏の第一歩が始まります。びっこになりたいという願望が子供の領域にあるように、舞踏する人の体験の中にもそうした願望が切実なものとしてあります。
 びっこの犬が人眼を避けて逃げるのを、子供が石や棒で追跡して、壁板のあたりに追いつめて、やたらに叩きのめしているのを見ますと、わたくしはある種の嫉妬を犬に感じます。」
「犬に打ち負かされる人間の裸体を、私は見ることができます。これはやはり、舞踏の必須課目で、舞踏家は一体何の先祖なのかということに、それはつながってゆきます。
 わたくしはあばらの骨が大好きですが、それも犬の方が、わたくしのそれよりも勝っているように思われます。これも古い心象なのでしょうか。雨の降る日など、犬のあばらを見て敗北感を味わってしまうことがあります。それにわたくしの舞踏には、もともと邪魔な脂肪と曲線の過剰は必要ではないのです。骨と皮、それにぎりぎりの必要量の筋肉が理想です。」



「刑務所へ」より:

「石を眺めては風邪を引き、風景の中に人間が居ないのを見届けて不安になり、それを片輪だと思って、ぼくは育って来た。」
「犯罪者、つまりその樣な仲間をいつも嗅ぎあてて、ぼくは育って来た。皆、人の子である債務を背負わされて、家出する仲間を慕って……ただそれだけでぼくの怒りは、充分だった。
 仲間、これはにおいの次元である。駄犬の樣な青春を生きてきたぼくにとって、世界という言葉は譫言(うわごと)に過ぎなかった。血を流している自然は、いつも社会学や歴史学の割付けからはみ出しており、ぼくの視線はそこ以外に注がれたことがなかった。東京でぼくが知り合った友人たちは、いわば、その樣な血を流す自然とは縁のない、においすらない、透明なメカニックな「世界」の住人だった。なぜか彼らはぼくにとって、屍体に見えて仕方がなかったのである。
 十全な腐爛を、なまなましい恐怖を、世界に撒き散らすような仕事はないものだろうか、そのような仕事を支える怒りの心棒に、手を触れたいと日頃考えていたのである。」



「人を泣かせるようなからだの入れ換えが、私達の先祖から伝わっている。」より:

「廃墟は、十四、五歳のからだに一度は見舞うものだ。爆弾が残していった廃墟を原点にしている人達は、廃墟というものを見染めたところに帰っていくらしい。この廃墟は、今日どのように大きく育っているのだろうか。廃墟にはとにもかくにも物(ぶつ)がある。」
























































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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