小島俊明 訳編 『アンリ・ミショー詩集』 (現代の芸術双書)

「屋根の上には、常にメードザンがいる。岬には、常にメードザンたちがいる。
 彼らは地上にとどまれないのだ。地上がどうしても気に入らないのだ。」

(アンリ・ミショー 「メードザンたちの肖像」 より)


小島俊明 訳編 
『アンリ・ミショー詩集』

現代の芸術双書 26 
Henri Michaux: Choix de poemes

思潮社 
1968年2月1日 第1刷発行
185p 口絵i 図版4p 
19×13cm 仮フランス装 ビニールカバー
定価600円



本書「訳者あとがき」より:

「詩篇の選択にあたっては、すでに邦訳があるなしにかかわらず(半数近くが初訳である)、フランスでアンソロジーに選ばれたり、批評家たちによって問題にされた代表作を中心にした。(中略)また諸般の事情から、近年の詩集からは選ぶことができなかった。けれどもその分を数葉ではあるが図版によって補い、すこしでもミショーの全貌を伝えたいと意図した。解説にかえて諸家のことばを抜粋紹介したのも、そのためである。」


口絵(アンリ・ミショー近影)1点、別丁図版(モノクロ)4点、本文中図版2点。


ミショオ詩集 01


本文での表記は「ミショー」ですが、表紙(背表紙・裏表紙)と巻末の「現代の芸術双書」リストでは「ミショオ」と表記されています。


ミショオ詩集 02


目次:
 
昔のおれ (一九二七) 
 謎
 疲労
 天啓をうけた人びとの時代
 おれは休むことができない
エクアドル (一九二九)
 アンデス山脈
 嘔吐あるいはやってくるのは死か
 おれは穴をあけられて生れた
わが領地 (一九二九)
 わが領地
 投影
 干渉
 叫ぶ
 つれ去っておくれ
夜は動く (一九三五)
 怠惰
 おれの王さま
 反対!……
 氷山
 わが人生
 註釈つきのデッサン
 安穏をもとめて
プリューム (一九三八)
 不幸のなかの休息
 死への途上で
 夜のなかで
 死の歌
 井戸のなかの石のように
 おとなしい男
 レストランのプリューム
 プリュームは旅する
 魔法
 「遠い国からお便りします」
 老年
 いったいおまえはいつ来るのか
 風景よ
魔法の国にて (一九四一)
 魔法の国にて
試練、悪魔祓い (一九四五)
 ラザロ おまえは眠っているのか
 剣の平和
 アルファベット
 声
 ぼくは見た
 手紙
 手紙はさらに云う……
 スフィンクス
 妖怪どもにまじって
 はてしのない一本の竿を
 大空のなかへ
 階段の妖怪
 二重の頭
 二重の生
 海
妖怪変化 (一九四六)
 わが肉体のなかをめぐりながら
 乳房の海
 妖怪変化
 未完成のものたち
 空間を切り裂くマント
 天と地のあいだ
 彼が反抗に安らがんことを
 タアヴィ
メードザンたちの肖像 (一九四八)
 ことに、あらゆる雌のメードザンと同様に……
 そして、彼女を見つめているうちに……
 メードザンたちの魂のなかで
 もつれあった三十四本の槍が……
 彼らは夢を見るために……
 メードザンたちの極端な柔軟性……
 電気の痙攣的なふるえが……
 氷のなかに、彼の神経叢は……
 彼らが伸縮自在に……
 まるい尻、まるい胸、まるい頭……
 屋根の上には……
可能にするための詩 (一九四九)
 おれは艪を漕ぐ

アンリ・ミショーの詩集
アンリ・ミショーについて
 幻を見る勤勉な詩人 (J・シュペルヴィエル)
 自己との折れ合いの悪さ (マルセル・アルラン)
 人間的な奇妙さ (アンドレ・ジイド)
 あるいは非人間的? (モーリス・ブランショ)
 健全なモラル (ルネ・エチアンブル)
 自然と超自然 (アンドレ・ルーソー)
 [無題] (モーリス・サイエ)
 霊的な観光旅行(ツーリスム) (マックス・ベンゼ)
 詩人ミショーと画家ミショーとの関係 (ミシェル・タピエ)
 画家ミショーの進展 (アラン・ボスケ)
アンリ・ミショーの略年譜
訳者あとがき



ミショオ詩集 04



◆本書より◆


「おれは休むことができない」:

「おれは休むことができない。おれの人生は不眠症にかかっていて、おれは仕事もせず、眠りもせず、ひたすら目をさましている。よこに寝た肉体のうえに魂が立っているかと思えば、立っている肉体のうえに魂が寝たりするけれども、おれは一睡もせず、背骨はほの暗い灯をともしつづけ、それを消すことができない。おれをそのように眠らせてくれないのは、慎重さというものではなかろう。というのは、探し、探しあぐねているとき、まったくふいに自分の探しているものが見つかることがあるからだ。自分が探しているものが何であるかわからないためである。」


「おれは穴をあけられて生れた」より:

「恐ろしい風が吹いている。
それはおれの胸にあいた小さな穴にすぎない。
けれどもそこには恐ろしい風が吹いている。」



「つれ去っておくれ」:

「つれ去っておくれ
古いやさしいキャラベル船のなかへ
船首のなかへ お望みなら泡のなかへ
つれ去っておくれ 遠くへ 遠くへ。

昔の繋駕のなかへ
雪のようなビロードのなかへ
つながれた犬たちの吐息のなかへ
枯葉の憔忰した群のなかへ。

つれ去っておくれ ぼくを壊さずに抱擁のなかへ
盛りあがって息づく乳房のなかへ
掌の絨毯とその微笑の上へ
長い骨と関節の回廊のなかへ。

つれ去っておくれ それともむしろ埋めておくれ。」



「おとなしい男」:

「ベッドから手をのばしても壁に触れないので、プリュームは驚いた。《おや蟻どもが喰っちまったのだな……》と彼は考え、また眠った。
 すこしたつと、彼の妻が彼を叩きおこす。ご覧なさい。怠け者! あなたが眠っているうちにわたしたちの家が盗まれてしまったのよと妻はいう。実際、真新しい空が四方にひろがっている。《やれやれ! しょうがねえ》と彼は考える。
 すこしたつと、物音が聞こえた。列車がかれらのところに全速力で到着したのだ。《あんな急ぎようでは、われわれよりも先に着くだろう》と彼は考え、また眠ってしまった。
 それから、寒さを覚えて彼は目をさました。全身が血まみれだ。彼の妻の二、三の断片がすぐそばにあった。《血とともに、いつも不愉快なことが続出する。もしあの列車が通らなかったら、おれは至極しあわせだったのに。だが、列車がすでに通過したのだから……》と彼は考え、また眠ってしまった。
 「おい」と裁判官がいった「おまえの妻が傷つき、八つの断片になってみつかったのをどう釈明するのか。傍らにいたおまえがそれを防ぐためになにもせず、気がつきさえしなかったとは。これは不思議だ。事件の鍵はそこにある」
 「あの道の上では、彼女を助けることはできない」とプリュームは考え、また眠ってしまった。
 「処刑は明日だ。囚人よ、なにか言い足すことがあるか」
 「お許しください。ぼくがやったのではないのです」そういって彼はまた眠ってしまった。」



「天と地のあいだ」:

「二つの苦しみの期間のはざまで苦しまないでいるとき、ぼくはまるで生きていないかのように生きていた。ぼくは自分を、骨や筋肉や肉や器官や記憶や意志を持っている一個人と見なすよりも、生命感が稀薄で不確定であるかぎり、天と地のあいだの無限の空間に糸で吊るされ、未だ定かならず、風のまにまに漂っている極微の単細胞動物であるとすすんで見なしたい。」


『試練、悪魔祓い』「序文」:

「年ごとに継起する幾千もの事件から、ひとつの完全な調和がえられるなら、それはきわめて異常なことだといえよう。それらの事件のなかには、過ぎ去ってしまわないで人びとのなかにとどまり、人びとを傷つけるものが常にある。
 なすべきことのひとつは、「悪魔祓い」だ。
 どんな状況も隷属である。幾百という隷属である。その隷属的状況から完全な満足がえられたり、ひとりの人間が、たといどんな活動家にまれ、現実にそれらとたたかって効果をあげうるなどということは、とても考えられない。
 なすべきことのひとつは、悪魔祓いだ。
 悪魔祓い、すなわち力による反撃、鉄槌ふりかざしての反撃は、囚われ人の真の詩だ。
 苦悩と妄念そのもののなかへ、かかる昂奮とかかる尊大な暴力とをことばの槌でうちこめば、苦痛はだんだん解消して、ひとつの軽快な魔神的な球となる――これはなんというすばらしい状態だろう!
 多くの現代詩は解放のための詩であり、悪魔祓いの、それも策略による悪魔祓いの効果を持っている。適切な想像力を念入りに働かせて身を護る意識下の本性の策略、つまり「夢」による悪魔祓いの効果。最高の適応点をもとめて模索する慎重な策略、つまり「眼ざめた夢」による悪魔祓いの効果を持っている。
 単に夢とかぎらず無数の想念は、「そこから脱出するため」のものであり、まったく別ものだと信じられてきた数々の哲学大系でさえも、とりわけ悪魔祓いの効果をもっていたのだ。
 しかし、そのような解放の効果は、まったく異った性質のものである。
 そこには、悪魔祓いの、猛烈な超人間的な、あの矢のような躍動はいささかもみられない。電流のようにすばやく送りかえされてきた撃退すべきものが、魔術的にうちのめされるその瞬間に形成される、あの砲塔のごとき爆発は、そこにはいささかもみられない。
 この垂直な爆発の噴出は、実存の大いなる瞬間のひとつである。不本意ながらも不幸な隷属に甘んじている人たちに向って、悪魔祓いの演習をするよういくら忠告してもしすぎることはないだろう。だが、モーターを動かし始めることは困難である。ほとんど絶望的な思いだけが迫ってくる。
 以上のことを理解された読者は、この詩集冒頭の数篇の詩が、明らかにこれこれしかじかの憎悪によってではなく、威圧的なものから自己を解放するために書かれたものであることを納得されるであろう。
 それらにつづく大部分の作品は、いわば策略による悪魔祓いである。それらの存在理由――それは敵意ある世界がわれわれを支配する力を無力にしてしまうことにある」



ミショオ詩集 03


こちらもご参照下さい:

郡司正勝 『童子考』















































































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将来の夢: 石ころ。

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