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『西脇順三郎詩集』 (青春の詩集 日本篇 15)

「杏子色(あんずいろ)の夕焼け
露(つゆ)のような女は
山猫のような影になる
春から夏へ夏から秋へ
このコンクリートの路(みち)の上で
人間は恐ろしくしやべつていた
夢みる夢も絶え生命は徒(いたず)らに
孤独だ」

(西脇順三郎 「キャサリン」 より)


鍵谷幸信 編 
『西脇順三郎詩集』

青春の詩集/日本篇15

白凰社 
昭和42年1月20日 初版第1刷発行
昭和55年4月15日 新装版第2刷発行
205p 口絵2p 
B6判 並装 カバー 
定価680円
Lace design by Federic de Vinciolo



本文は基本的に二段組。
巻頭詩「アポカリプス」は本詩集のための書き下ろし(1966年12月9日作)です。


西脇順三郎詩集 白凰社 01


カバー裏文:

「西欧的知性と
独特の抒情が融合した
西脇順三郎の詩は
斬新なスタイルとイメージをもって
わが国の現代詩に
一大変革をもたらしたが
近年はさらに 東洋的無への沈潜を加え
前人未到の詩的世界を創造した。」



西脇順三郎詩集 白凰社 02

「昭和37年12月 代々木・自宅にて 菊地貞三撮影」


目次:

  アポカリプス

Ambarvalia 抄
 LE MONDE ANCIEN
  ギリシャ的抒情詩
  天気
  カプリの牧人
  雨
  手
  眼
  皿
  栗の葉
 拉典哀歌
  Ambarvalia
  ヴィーナス祭の前晩
 LE MONDE MODERNE
  馥郁タル火夫
  紙芝居 Shylockiade
  失楽園
   世界開闢説
   内面的に深き日記
   旅人
   コップの原始性
   セーロン
   歯医者
   ホメロスを読む男

旅人かえらず 抄

近代の寓話 抄
  近代の寓話
  キャサリン
  アン・ヴァロニカ
  秋
  秋の写真
  南画の人間
  桃の国
  無常
  冬の日
  山樝
  磁器
  午後の訪問
  甲州街道を
  山の酒
  アタランタのカリドン
  かなしみ
  粘土
  一月
  枇杷
  庭に菫が咲くのも
  道路
  五月
  夏から秋へ
  夏の日
  燈台へ行く道
  留守

第三の神話 抄
  猪
  十月
  正月三田
  雪の日
  二人は歩いた
  自伝
  しゆんらん
  茶色の旅行
  プレリュード
  第三の神話

失われた時 抄
  失われた時
  無花果
  リンドウ
  水

豊饒の女神 抄
  女の野原
  季節の言葉
  あざみの衣
  桃
  九月
  最終講義

えてるにたす 抄
  えてるにたす

宝石の眠り 抄
  イタリア
  写真
  まさかり
  崖の午後
  雲のふるさと
  宝石の眠り

西脇順三郎の人と作品 (鍵谷幸信)
鑑賞ノート (鍵谷幸信)
年譜
索引



西脇順三郎詩集 白凰社 03



◆本書より◆


「アポカリプス」:

「ああ
生物(せいぶつ)は永遠の中(なか)に生れ
永遠の中で死んで行く
ただそれだけであると
いうことは
人間の唯一(ゆいいつ)の榮光で
生物の唯一の哀愁だ

永遠は瞬間の中(なか)にしか
啓示(けいじ)されないと意識するとき
黄色い水仙をつむ指先が
ふるえる
野原には
無色の鶏(にわとり)が歩いている
モロフの杏(あんず)の花も
おののく

この青ざめた
コンクリートの野原を
さまよう脳髄の戦慄(せんりつ)は
生物の宿命の哀愁だ

すべての女の顔は
椎(しい)のドングリに
ほそながく写つて
また露に消されている
すべての吹く風は
顴骨(かんこつ)にかすかに残るだけだ
人間の野原の歴史は
なまぬるい
石の夜明(よあけ)だ
アポコペ」



「旅人」:

「汝(なんじ)カンシャクもちの旅人よ
汝の糞(くそ)は流れて ヒベルニヤの海
北海 アトランチス 地中海を汚(よご)した
汝は汝の村へ帰れ
郷里の崖(がけ)を祝福せよ
その裸の土は汝の夜明だ
あけびの実(み)は汝の霊魂の如く
夏中ぶらさがつている」



「セーロン」:

「土人はみな家(いえ)にはいつている
炎天に僕はひとり歩いた
土管の上にトカゲがいた
茄子(なす)が光つている
菫(すみれ)は燃えている
菫の葉の上にたまつている熱い砂が
手の甲にふりかかる
セーロンの昔」



「秋 II」:

「タイフーンの吹いている朝
近所の店へ行つて
あの黄色い外国製の鉛筆を買つた
扇(おうぎ)のように軽い鉛筆だ
あのやわらかい木
けずつた木屑(きくず)を燃やすと
バラモンのにおいがする
門をとじて思うのだ
明朝(みょうちょう)はもう秋だ」



「二人は歩いた」:

「九月の初め二人は歩いた
流動的哲学はもう二人の中を流れ去つた
もう何も考えるものが失(な)くなつた
ただ生物的特に植物的追憶がすこし残るだけだ
苔類(こけるい)はお寺へまかして置いてもいいのだ
キノコとキチガイナスとが人間の最後の象徴に達していたことを発見して
二人はひそかによろこんだ
この男の友は蝶々の模様のついた縮緬(ちりめん)の
シャツを着ていた
ハイヒールの黒靴をはいたおめかけさんの着ている
tea-gown のようで全体として
けなるいものだ
自転車に乗つて来た女の子から道をきいて
エコマの上水跡(じょうすいあと)をさぐつた
玉川の上水でみがいた色男とは江戸の青楼(せいろう)の会話にも出てくることだが二人は心にかくした
百姓家(ひゃくしょうや)の庭に鳳仙花(ほうせんか)が咲いていた
二人は子供の時を憶(おも)つて
「ほうせんかを知らない人間はいないでしようね」とささやいてみた
なにしろ近頃はほうせん花の文明が滅亡に近づいていることを二人は歎(なげ)いた
この男のいうのには「楽翁(らくおう)は田舎(いなか)へなど引込まないでこのあたりに草庵(そうあん)を結んだなら桂の離宮以上のものが出来たんだがほんとに惜しいことをしたものだ」
けやきの森と竹薮にかこまれた昔の地主の家(いえ)らしいものを見て二人はあごをあげて何ものかを感じた
その生垣(いけがき)に赤くなつている古木(こぼく)の実(み)を葉ごとむしりとつて
「これはさんしようですよ」と友の鼻へあてがつた「これは昔この辺(へん)の車大工(くるまだいく)が首を吊つた木だ」
「江戸青山道(あおやまどう)」と彫られた石の道しるべがあつたが二人は道を失(うしな)つた
とにかく駅までもどりましよう
駅の近くで カサブランカに出ていたという八百屋(やおや)の若いかみさんから道をきいて
慶元寺(けいげんじ)の方(ほう)へ歩き出した
日がくれかかつたのでいたちのように早く歩いた
コンクリートの街道は幾度(いくど)か曲つた
黄色い穂を出しているヌルデの藪におおわれてる川に沿つて道はくねつた
二人は「九月の事件」をさがしていたのだ
八時頃新宿(しんじゅく)できそばをたべて目黒(めぐろ)へもどつてルヌアルの女のような骨董屋(こっとうや)によつて
江漢(こうかん)に如何(いか)にニセが沢山(たくさん)あるかを茶を
のみながら話し合つて二人は別れた」



「かなしみ」:

「花崗岩(かこうがん)に
春が来た
上州(じょうしゅう)の山おくに
梅の花が白い
三月の二十日(はつか)ごろ
葬礼(そうれい)のかえりだ
都(みやこ)へいそぐのだ
死人(しにん)は笑つている
バラからうまれて
鉄砲百合のうしろで
もうイソップ物語を読む他(ほか)ない
ただしあの説教を読まないことだ
すばらしい田園の悲劇があるのだ
あの名もないさし絵かきの偉大さ
へカーネーション ミモーザ
フリジヤ すみれをささげる
三角頭巾(ずきん)をかぶつて パンツを
はいて 短刀をさげて
魚(さかな)を釣つている男がいる
これは一体どこの民族の風俗なのか
ギリシャ人でもマライ人でもない
いままでこのことは考えたことが
なかつたとは
安政年鑑の英国のさし絵かきの
童話のための風俗だ
三日月(みかづき)のような鎌で麦を刈つて
ひばりを驚かしている
人間と鱸(すずき)が話をしている
狐(きつね)とコウヅルが立ち話をしている
乞食(こじき)や旅人がぶらぶらしている
生垣(いけがき)のいばらでトゲをさして
血が流れている
蜂 蝗(いなご) 蟻 水がめ
風 太陽 葡萄(ぶどう) まむし
樫(かし)の古木(こぼく) 溺(おぼ)れようとする子供
遠くに塔がゆがんでみえる」




魚を釣つている男

Bewick's Select fables of Aesop and others, with illustrations by Thomas Bewick.
1871 (first edition published in 1818).  
http://mythfolklore.net/aesopica/bewick/









































 
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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

すきなことば: 「だれもいない」「ギブアウェイ」「ウポポイ」「隠密」
きらいなことば: 「人と人とのつながり」「キャリアアップ」「ほぼほぼ」「三密」

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。
歴史における自閉症の役割。

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