アンリ・ミショー 『荒れ騒ぐ無限』 (小海永二 訳)

「時々、空中にぶら下がった、幻想的な凝結状態にある沈殿物のような黒い点々が、幾百万と落ちてくる。互に身をすり寄せ合う黒い殻粒のように、絶え間なく、人を驚かせて、順序よくあらゆる光を遮蔽しながら。」
(アンリ・ミショー 『荒れ騒ぐ無限』 より)


アンリ・ミショー 
『荒れ騒ぐ無限』
小海永二 訳


青土社 
1980年1月30日 印刷
1980年2月15日 発行
226p 別丁図版(モノクロ)8p 
A5判 丸背クロス装上製本 カバー 
定価2,200円
装画: 津高和一



本書「あとがき」より:

「アンリ・ミショーのほぼ十年間に及んだメスカリン実験の報告記録は、一九五六年刊の『みじめな奇蹟』から一九六六年刊の『精神の大いなる試練』に至るまで、全部で五冊を数える。ここに訳出した『荒れ騒ぐ無限』(L'Infini turbulent)は、『みじめな奇蹟』に次ぐ二冊目の実験報告であって、『みじめな奇蹟』刊行の翌一九五七年に、メルキュール・ド・フランス社から出版された。この書物は、その後一九六四年に同社から増補新版が出されており、訳出のテキストにはこの増補新版の方を使用した。」


ミショーによるデッサン11点。


ミショー 荒れ騒ぐ無限 01

 
帯文:

「今世紀最大の幻想派詩人ミショーが、自己解体への強烈な誘惑にかられ、意識の極地をもとめて、メスカリン、LSDを服用し、イメージの荒れ狂う海を彷徨する、深層のドキュメント。」


目次:
 
第一部 メスカリンの効果
第二部 八つの実験
 第一の実験 黒いヴィジョン
 第二の実験
 第三の実験
 第四の実験
 第五の実験
 第六の実験
 第七の実験
 第八の実験
第三部 メスカリン領域と隣接領域
 L・S・D・25

幻覚剤におけるエロスの問題 (一九六四年)
 
訳者あとがき



ミショー 荒れ騒ぐ無限 02



◆本書より◆


「第一の実験 黒いヴィジョン」より:

「突然、わたしは恐怖を感じる。たった今、わたしは黒いイメージを見たばかりだ。そして、もしもわたしが、これからはもはや黒色にしか出会い得ないようになろうとしているのだとしたら? もしもわたしが、これからは、内部におけるのと同様外部においても、永久に黒色の中に居ようとしているのだとしたら?
 わたしはその時まで、何やらよく知らぬ視覚論に従って、人間は真に黒色の内的ヴィジョンを持つことはできないと信じていたのだが、今やわたしはその黒いヴィジョンの中にあり、そして恐らく、わたしの憎むべき好奇心のために自分の視力を破局的に犠牲にするべく定められているのである。」
「わたしの観察しうる限り遠くまで、黒い点々がそこには作られ、接近し合い、接近し合って、遂に接合し、ほとんど連続した、ほとんど一塊となった、果てしない母岩を形成し始める。すると、その危機的な瞬間に、空間そのものが消える。そして別の空間が浮かび出る。そこにも同様の黒い点々があるが、今度は甲虫のようで、狂ったようにいらいらし、歩き出し、あらゆる方向からやってくる、まるで、互に混じり合い、癒着し合おうとするかのように。と、すでに、それらは互に癒着し合って、ほとんどただ一つの塊のようになる。するとその時、ふたたび空間がぱっと消える。その間に、新しい空間が位置を占める。小さいのや、大きいのや、だがどっちにせよ必ず、黒い点々は、すぐに、威嚇しに、襲いかかりに、侵入しに出かける、ロケットのように飛びながら、最初は小さくとも、到着した時にはいつも巨大な大きさになって。
 時々、空中にぶら下がった、幻想的な凝結状態にある沈殿物のような黒い点々が、幾百万と落ちてくる。互に身をすり寄せ合う黒い殻粒のように、絶え間なく、人を驚かせて、順序よくあらゆる光を遮蔽しながら。
 絶えず新しく変る何かよくわからぬものの奥底から、黒い肉体がわたしの方に向かって進んでくる、内部のヴィジョンの場に、ごく小さな裂け目だけをそのまま残しながら。その裂け目だけが、完全な暗黒からわたしを救ってくれる。けれども、すでに広がった黒色の上に、時々、新しい黒色、純黒の黒色、(中略)壊疽の黒色が置かれ、それらがそのヴィジョンの場を蔽うだけでは満足せず、全速力で裂け目を征服しようとし始める。そして、裂け目は、不可避的に、口を塞がれようとする。その時、ドラマの新しい局面が現われる。威嚇的な黒色がやってくるのは、今ではもはや、四方の端からヴィジョンの中心をめざしてではない。そうではなくて、幾百万もの黒い小さな水滴がぼんやりと湧き出し始め、溢れ、噴出し、間歇泉のようになり始めるのは、眼そのものの中心、その奥底からなのだ。」




























































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本