稲垣足穂 『【初版再録】 一千一秒物語』

「芸術とはココア色の遊戯である――トゥリスタン・ツァラ」


稲垣足穂 
『【初版再録】
一千一秒物語』


発行所: 木馬舎
発売元: 人間と歴史社
昭和62年11月15日 初版第1刷印刷
昭和62年11月25日 初版第1刷発行
262p 編集付記1p 
21.5×14.5cm 角背紙装上製本
本体カバー 筒函 
定価2,300円



本書「編集付記」より:

「本書は、稲垣足穂著『一千一秒物語』(1923年・金星堂刊)と『第三半球物語』(1927年・金星堂刊)の初版本を新かなに改め、それらを取り巻く諸作品衛星群を併載したものである。
 足穂のおびただしい数にのぼる作品群は、「一千一秒物語の註釈」として位置付けられるものであり、その理由によらばこそ、同時にそれらは目まぐるしく改訂に改訂を重ね続けられたとすれば、現在、定本とみなされている『一千一秒物語』もまた、初版の註釈としての所産であると解してよいであろう。今回の刊行物の題名が『一千一秒物語』と名付けられ、敢えて初版を底本としているのはこのような解釈によっている。(中略)付録として改訂後の異稿『一千一秒物語』および『第三半球物語』を併載したのも、改訂の際の足穂の意識を、片鱗でも味わって頂けたらと思ったからである。」



本書の口絵にあたる部分は銀紙になっています。
足穂によるデッサン3点。


稲垣足穂 一千一秒物語 01


函文:

「お星様は如何ですか?
黄色はレモン、紅はストロベリー、
青いのはペパーミントの味がいたします。
何方のお口にも合って、悪酔いなど決してするものではありません。
お土産に壜入りのお星様は如何でございます?

ある日、世界のはてから『一千一秒物語』が届いた。
ずっと以前にどこかで読んだ本、
またずっとずっと末来にどこかで出くわすような本。」

「Comet-Taroupho Planetarium
Taroupho Inaguaqui」

「「土星ってハイカラだね」
「すてきだよ」
「ほうきぼしもいいな」
「ほうきぼしもいい」
「きみ見たかい?」
「見た―君は?」
「だいぶ前だ。夜中すぎに、北寄りの東のそらの果にぼーっと
幽霊みたいに浮き出したかと思うと、また見ているうちに
薄らいでしまったので少うし怖かったよ」」



函裏文:

「あなたには、荒唐無稽には涅槃を過ぎざるを得なかった
末来人の悲しい逆説があるということが判っているのか。
それはバネ仕掛の黒猫であり、硝子製の星であり、紙袋の空っぽなウイスキー壜である。
そこにはいつも世の常ならぬ高踏と非ユークリッド幾何学式の哲学がある。」



稲垣足穂 一千一秒物語 02


目次:

一千一秒物語
第三半球物語


シャボン玉物語
香炉の煙
秋五話
タルホ五話
東洋更紗


物質の将来
螺旋境にて
月光密輸入
鶏泥棒
星を喰う村
天文台
パンタレイの酒場
空中世界
奇妙な区廓に就いて
緑色の記憶
夏至近く
イカルス


忘れられた手帖から
世界のはて
僕のオードブル
『一千一秒物語』の倫理
 
初出一覧
付録 (異稿「一千一秒物語」「第三半球物語」[二段組])


稲垣足穂 一千一秒物語 04



◆本書より◆


「さあ御食事がすみましたら
こちらの方へ集って下さい
いろんな煙草が取り揃えてあります
目録によってどれでもお好み次第に……

【月から出た人】
油絵のローデンバッハの夜に 黄いろい窓から洩れるギターを聞いていると 時計の螺旋のもどける音がして チーンと鳴るかと思っていると これは又! キネオラマの大きいお月さんが昇り出した
そして地から二呎ばかり離れたところで止ると その中からシルクハットをかむった人が出て来て白い花の上に飛び下りた オヤと見ていると煙草に火をつけて 短かいステッキをふりながら歩き出した ついて行くと並木路をズンズン歩いて行った その時 青白い路の上に落ちている木の影が大へん面白い形をしていたので それに気を引かれたハズミに 今度眼を上げると すぐその先を歩いていた筈の人が見えなくなっていた 耳をすましてみたがシーンとして靴音らしいものは聞えなかったので 元のところへ引き反して来ると お月さんも何時の間にか高く昇って 静かな夜風に風車がハタハタと廻っていた

【見て来たようなことを云う人】
「君はあのお月さんも星もみんなほんとうにあると思っているのかい?」
或る夜ある人がこう云った
「うんそうだよ」
自分がうなずくと
「ところが君そりゃ欺されてるんだよ あの空は実は黒いボール紙で それにお月さんや星型のブリキが張ってあるだけさ」
「じゃお月さんや星は何う云うわけで動くんかい?」
びっくりして自分が問い反すと
「そりゃゼンマイ仕掛さ!」
その人はこう云ってカラカラと笑った その時 ふと気付くと誰も居らなくなっていたので オヤと思って上を仰ぐと 縄梯子の端が星空へスルスルと上って行くのが見えた」



稲垣足穂 一千一秒物語 03

稲垣足穂 画 『星の勝利』。






















































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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