ホルヘ・ルイス・ボルヘス/マルガリータ・ゲレロ 『幻獣辞典』 柳瀬尚紀 訳

「ユイヌ川はこれといって波瀾のない流れだが、中世にはこの堤に毛むくじゃら獣(La velue)という名で知られるようになった生き物が出没した。この動物は箱舟に乗せられなかったにもかかわらず、どういうわけかノアの洪水を生きのびたのだ。」
(ボルヘス/ゲレロ 「フェルテ=ベルナールの毛むくじゃら獣」 より)


ホルヘ・ルイス・ボルヘス
マルガリータ・ゲレロ
『幻獣辞典』 
柳瀬尚紀 訳


晶文社 
1974年12月25日 初版
1980年4月10日 9刷
225p 索引vi 
19.5×15.5cm 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,200円
イラストレーション: 鈴木康司
ブックデザイン: 平野甲賀



本書「解説」より:

「本書の原書は、スペイン語版 Jorge Luis Borges con la colaboración de Margarita Guerrero: El Libro de los Seres Imaginarios (1967) である。翻訳にあたっては、同書およびその仏訳版(中略)を参照しつつ、英語版 The Book of Imaginary Beings (revised, enlarged, and translated by Norman Thomas di Giovanni in collaboration with the author, E.P. Dutton & Co., Inc. 1969) を用いた。」


ボルヘス 幻獣辞典 01


帯文:

「不思議の国の動物たち
ケンタウロスからチェシャ猫まで、古今東西の幻の動物たちが続々と登場。現代文学の巨人ボルヘスがその驚くべき学殖を傾けて集成した架空存在の書!」



帯背:

「幻想動物のページェント」


目次:
 

一九六七年版序
一九五七年版序

ア・バオ・ア・クゥー
アプトゥーとアネット
両頭蛇
カフカの想像した動物
C・S・ルイスの想像した動物
ポオの想像した動物
球体の動物
六本足の羚羊(れいよう)
三本足の驢馬
バハムート
バルトアンデス
バンシー
バロメッツ
バジリスク
ベヒーモス
ブラウニー
ブラク
カーバンクル
カトブレパス
天空の雄鹿
ケンタウロス
ケルベロス
チェシャ猫とキルケニー猫
キマイラ
中国の竜
中国の狐
中国のフェニクス
クロノスあるいはヘラクレス
C・S・ルイスの想像した獣
クロコッタとリュークロコッタ
ある雑種
分身(ダブル)
東洋の竜
死者を食らうもの
八岐大蛇
釈迦の生誕を予言した象
エロイとモーロック
エルフ
一六九四年、ロンドンでジェイン・リード夫人が知り、見、出会ったことの実験的報告
フェアリー
ファスティトカロン
チリーの動物誌
中国の動物誌
鏡の動物誌
合衆国の動物誌
ガルーダ
ノーム
ゴーレム
グリュプス
ハニエル、カフジエル、アズリエル、アニエル
雷神、ハオカー
ハルピュイア
天鶏
ヒッポグリュプス
ホチガン
ハンババ
百頭
レルネーのヒュドラー
イクテュオケンタウロス
ユダヤの悪魔たち
ジン

火の王とその軍馬
クラーケン
クジャタ
ちんばのウーフニック
ラミアー
過去を称える者たち(ラウダトレス・テンポリス・アクテイ)
レムレース
レヴェラー
リリス
月の兎
マンドレイク
マルティコラス
ミルメコレオ
ミノタウロス
墨壺の猿
怪物アケローン
亀たちの母
ナーガ
ニスナス
ノルニル
ニンフ
レヴィアサンの末裔
オドラデク
ひとつ目の生き物
パンサー
ペリカン
ペリュトン
フェニクス
ピグミー
雨鳥
レモラ
ルフ
サラマンドラ
サテュロス
スキュラ
海馬(かいば)
フェルテ=ベルナールの毛むくじゃら獣
シムルグ
セイレーン
鎖つきの雌豚、その他のアルゼンチン動物誌
スフィンクス
スクォンク
スウェーデンボリーの天使
スウェーデンボリーの悪魔
シルフ
タロス
饕餮(とうてつ)
熱の生き物
安南の虎
トロール
形而上学の二生物
一角獣
中国の一角獣
ウロボロス
ヴァルキューレ
西洋の竜
ユーウォーキー
ザラタン

解説 ホルヘ・ルイス・ボルヘス、あるいはアダムの肋骨とゴグと主キリストと学識 (柳瀬尚紀)
索引



ボルヘス 幻獣辞典 02



◆本書より◆


「序」より:

「誰しも知るように、むだで横道にそれた知識には一種のけだるい喜びがある。本書の編纂と翻訳でわれわれはそうした喜びをおおいに味わった。古い作家や秘められた文献を捜し求めて、友人の書棚や国立図書館の迷路にも似た筒形天井の部屋をくまなく漁ったときのわれわれの喜びを、読者も分かちあってくださるものと思う。」
「本書の初版は八十二篇から成り、一九五七年メキシコで出版された。そのタイトルは Manual de zoologia fantástica (『幻想動物学案内』)だった。一九六七年、第二版――El libro de los seres imaginarios (『想像の存在の書』)――がブエノスアイレスで出版されたが、これは三十四篇追加したものである。この英語版でわれわれはもとの項目をかなり変更し、訂正、補足、修正を行なった。新たな項目もいくつか加えた。この最新版は百二十篇から成る。」



「一九五七年版序」より:

「プラトンは(中略)子供がすでに原型から成る原初的世界において虎をみており、いま虎をみるやそれだとわかるのだというだろう。ショーペンハウアーは(中略)子供が虎をみて恐れないのは自分がその虎たちであり、虎たちが自分であることを知っているからだ、(中略)もっとも正確には、子供も虎もあの単一の本質、《意志》の形態にほかならないというだろう。」


「球体の動物」より:

「球体は固体のなかで最も形がととのっている。その表面上のいかなる点も中心から等距離にあるからだ。このことゆえに、また一定の場所から離れることなく自転する能力があるゆえに、プラトン(中略)は世界に球体の形を与えたデミウルゴスの判断を是認している。プラトンは世界が生ける存在であると考え、(中略)惑星その他の星も生きていると述べている。このようにして彼はさまざまの巨大な球体動物によって幻想動物学を豊かにし、天体の循環軌道が任意のものであることを理解しない愚鈍な天文学者たちを誹謗した。
 五百年以上後のアレクサンドリアでは、教父のひとりオリゲネスが祝福されたる者は球体となって生きかえり、ころがりながら天国へはいっていくと説いた。
 ルネサンス期には、天国を動物とみる考えがルチリオ・ヴァニーニにふたたび現われる。新プラトン主義者のマルシリオ・フィチーノは地球の毛髪や歯や骨について語っている。またジョルダーノ・ブルーノは遊星がそれぞれ大きなおとなしい動物で、暖かい血が通い、規則正しい習慣をもち、理性を賦与されていると考えた。十七世紀初頭、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーはイギリスの神秘主義者ロバート・フラッドと論争し、「眠っているときと目覚めているときとで変化するその鯨のごとき呼吸によって、潮の満干(みちひ)を引き起こす」生ける怪物として地球を考えたのはどちらが先だったかを張りあっている。この怪物の構造、摂食習性、色、記憶力、想像能力および造形能力を、ケプラーは入念に研究した。
 十九世紀には、ドイツの心理学者グスタフ・テオドール・フェヒナー(中略)が、まったく子供のように真剣になって右に挙げた諸概念をふたたびとりあげている。われらの母なる地球が有機体である(中略)という彼の仮説を軽視しない者があれば、フェヒナーの『ゼンド=アヴェスタ』の敬虔なページに目を通すのがよいだろう。そこにはたとえば、地球の球体という形がわれわれの肉体の最も高尚な器官、人間の目の形であると書かれている。また、「天空が実際に天使の家だとするなら、この天使たちが星であることは明らかである。なぜなら天空に住む者はほかにいないからだ」とも書かれている。」



「墨壺の猿」:

「北方では珍らしくないこの動物は、体長が四、五インチある。目は深紅、皮は漆黒で、絹のようにすべすべして、枕のように柔らかい。奇妙な本能がその特徴である――墨を好むのだ。人が座って書き物をしようとすると、この猿はそのそばに胡座(あぐら)をかき、手を重ね合せてうずくまり、終わるのを待っている。それから残った墨をすっかり飲んでしまうと、満足して静かに尻をついて座る。
ワン・タイハイ(一七九一)」



ボルヘス 幻獣辞典 03







































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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