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伊達得夫 『詩人たち ユリイカ抄』 (平凡社ライブラリー)

「「死ぬときはあのてっぺんから、マントをさっとひるがえして飛びます。どうですか」かれの指さす彼方には、グランド照明燈の高い鉄塔がそびえていた。「てっぺんでシーザーのように演説をして……」ふっと言葉を途切らせた。」
(伊達得夫 「消えた人」 より)


伊達得夫 
『詩人たち ユリイカ抄』

平凡社ライブラリー 558 

平凡社
2005年11月10日 初版第1刷
261p 口絵(カラー)8p 
B6変型判(16×11cm) 並装 カバー 
定価1,200円+税
装幀: 中垣信夫
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル
カバー図版: 伊達得夫

 

大岡信による「平凡社ライブラリー版 解説」より:

「本書は、(中略)伊達得夫遺稿集刊行会からまず刊行された。刊行されたのは、(中略)一九六二年一月十六日のことだった。限定二百部の非売品だった。すなわち、多くの読者に読まれるであろうことなど、まったく考えておらず、純粋に死者の遺稿を集成し、追慕・追悼するための記念碑的出版物として世に出されたのだった。
 ところが、この本の刊行一年後に新たに設けられた「歴程賞」が、第一回の受賞作として『ユリイカ抄』に与えられるという、いわば偶然の出来事が生じ、本書に脚光があてられることになった。」
「日本エディタースクール出版部から『ユリイカ抄』が刊行された。一九七一年七月のことである。伊達得夫の文章を主体として、中村稔の「後書」、「書肆ユリイカ出版総目録」、それに私自身の「解説」がついていた。
 今回、以上のような内容をそっくり生かした上、私のこの「平凡社ライブラリー版解説」をつけ足した形のものが、新たに刊行されることになったのは、伊達得夫にとってまことによろこばしい出来事である。いつも何となく手持ち無沙汰な様子を見せていた人だったが、自分の興味をもてることに関しては、子供のように無心に没頭する人でもあった伊達得夫という人物の姿は、このただ一冊の著書の中にも、実になつかしい人物像としてくっきりと浮かびあがっている。」



著者によるカット28点。


伊達得夫 詩人たち ユリイカ抄 01


帯文:

「戦後詩史にその名をとどめる
伝説の出版人の貴重な記録」



カバー裏文:

「詩誌『ユリイカ』を主宰し、
原口統三はじめ、多くの詩人を世に出した
伝説の出版人の遺稿文集。
戦後文学史の空白を埋める
貴重な交流録であるとともに、
出版とは何かを静かに熱く伝える、
すぐれたドキュメント。
第一回歴程賞受賞作。」



カバーそで文:

「著者
伊達得夫(だて とくお)
1920年、釜山生まれ。福岡高等学校を経て、
43年、京都大学経済学部卒業。
48年、書肆ユリイカ創設。
原口統三『二十歳のエチュード』を刊行、
以後、主として詩書を出版。
56年、詩誌『ユリイカ』創刊。
詩集・詩論集の出版、同人誌の刊行などで
戦後詩に広く活躍の場を提供し、
現代詩人を世に送り出す。
61年1月16日死去。
本書は第一回歴程賞受賞作。」



目次:
 
ふりだしの日々
 「余は発見せり」
 パイプはブライヤア
 首吊り男
 消えた人
 呪われた本
 紐
 ふり出しの日々の群像
 火焔ビン文学者

青春不毛
 活字
 スヰートピイ駱駝
 ヘソとプロマイド
 幾歳月
 肖像画
 発禁の思い出
 青春不毛

詩人のいる風景
 喫茶店・ラドリオ
 手紙
 悲しき玩具
 売れない本の作り方
 ある国際的会合
 階段
 谷川俊太郎のこと
 清水康雄のこと
 黒田三郎のこと
 清岡卓行のこと
 吉岡実異聞

童話
 思いつき先生のこと
 サキコのこと
 りんごのお話(未完)

後書 (中村稔、1961年7月)
書肆ユリイカ出版総目録
 刊行図書目録
 雑誌「ユリイカ」目録(自一九五六・10至一九六一・2 通巻53号)
 同人雑誌目録

解説 (大岡信、「エディター叢書」版)
平凡社ライブラリー版 解説 (大岡信)



伊達得夫 詩人たち ユリイカ抄 02



◆本書より◆


「消えた人」より:
 
「一九四六年の冬、「新潮」に「ヰタ・マキニカリス」というエッセイが載っていた。筆者は稲垣足穂であったが、ぼくはその署名には全く知識がなかった。(中略)たちまちぼくはその文章に取り憑かれた。(中略)ぼくを強力に捉え揺さぶったのは、宝石をばらまいたような、その文章の魔力だった。」
「池上あたりの小住宅街でたずねあてた家は、垣根をめぐらせたしもた屋で、かれはその一室に間借りしていた。かれは気さくにぼくを自分の部屋に招じ入れたが、第一印象は、ぼくの予想を遥かに上廻った。部屋には、何にもなかったのだ。湯呑み茶わんだとか、座布団だとか、机だとか、そんなものが何一つ見当らない。(中略)こんなにさっぱりと何もない生活というものは、もはや貧しさとか、不遇とかいう性質のものではないだろう。その抽象的ともいうべき部屋のまん中に膝をそろえてかれは坐った。言葉は早口で、しかも低い声で、聞きとりにくかった。呪文めいたことを呟いて、ひとりで笑ったりした。」
「ニ、三週間後に、かれは大きな風呂敷包をかかえて、編集室にぼくをたずねて来た。包みの中には一〇〇〇枚の原稿が入っていた。」
「社長をときふせて、ぼくは一〇〇〇枚の原稿を印刷所へ廻した。(中略)しかし、その頃から、ぼくの勤めていたM社は急速に傾き始めた。紙型は印刷されないまま、棚の上で埃を浴びていた。そして、そのまま、四八年の冬、M社は倒産した。」
「失業者になったぼくは、個人で出版をはじめた。出版社の名前に「ユリイカ」という奇妙な外国語を示唆してくれたのは、やはりかれであった。倒産したM社から『ヰタ・マキニカリス』の紙型を買い取って、それをユリイカ版として出版した。発行部数五〇〇部。四九年の初夏であった。」



「呪われた本」より:

「それから数ヵ月後にぼくは、牧野信一作品集『心象風景』を宇野浩二の解説によって、二〇〇〇部印刷した。宇野浩二はその間に、宿屋をひきはらって、森川町の小ざっぱりした家に引っ越した。しかし、かれの書斎は、やはりうず高い雑然たる書籍の山であった。そしてその谷間にかれはめくら縞の着物を着て、いつも端然と坐っていた。
 ところでぼくは出来上りつつある本の検印をもらうために牧野未亡人をたずねねばならなかった。所書きはかれが書いてくれた。神田小川町の某謄写版印刷所につとめているということであった。それは戦災に焼け残った古い二階屋だった。一階には数台の謄写版があって、シャツ一枚の男たちが並んでローラーをおしていた。ぼくはその一人に牧野さんはおいでですか、とたずねた。マキノさあん! と二階の階段にむかって声があげられた。そして現れた初老の婦人に、ぼくは「あ」と息をのんだ。
 ぼくが神田へ通っている電車の中でしばしば出会う婦人があった。髪はほとんどまっ白だったが、しかし化粧は厚かった。(中略)その人は化粧だけでなく、服装にも異様なものがあった。バタくさいはでな洋服、だがうすよごれすりきれてさえいる。(中略)そして、ズックの運動靴。ぼくのすぐ横の吊革にぶらさがったとき彼女が、小声で童謡を口ずさんでいるのが耳に入った。「かなりイカレているな」とぼくは横目でその人を注目した。(中略)――その人がいま二階からトントンとおりて来たのだ! ぼくの名刺を見てどうぞと言った。」
「「宇野先生に編集していただいて牧野さんの作品集を作りましたのですが、それに検印をいただきたいと思いまして……」
 彼女はあらぬ方をながめて、何にも答えなかった。「この検印紙に……」
 「宇野さん?……あ、知ってます。宇野なら、あたし知っていますわ。ホホホホ……」
 ぼくの差出した検印紙を彼女は手に取ろうともしなかった。
 「そうですわねえ。本を出すってことは、たいへんですわねえ」ぼくは、黙ってくったくなく微笑んでいる彼女の顔を見つめるしかなかった。彼女はだまってタバコに火をつけた。」
「ぼくはその足ですぐ宇野浩二をたずねた。「どうも話にならないのですが……」宇野浩二はみなまで言わせず、ピシャンと自分の額を叩き、あ、そうでしょう、そうでしょ、とうなずき、認印をとり出した。「これで捺しといて下さい」そして、あのひとなつっこい笑顔を見せたのだ。」



「紐」より:

「ある日、ぼくは(中略)加藤道夫の家をたずねた。加藤道夫は、伏目がちに弱々しいポーズでぼくたちを迎えた。洋間。片隅にベッド。それをカーテンで仕切っていた。大きいデスク。クラシックな調度。日本とフランスの本。天井には洗濯物を吊していた細びきが数本はられていた。(洗濯物は、かれによって手早く取片づけられた)何故、部屋の中に干し物をしなくてはならないのか? 加藤家は邸宅と呼ぶにふさわしい立派な洋館で、敷地も広かったから、ぼくの疑問は今も疑問のままだ。そして二年後、かれの自殺の記事を新聞で読んだ時、反射的にぼくの頭に浮かんだのは、天井にはられていたその細びきであった。かれの自殺の方法は、その紐の一つを自分の首にまきつけることであった」











































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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