細馬宏通 『浅草十二階』

「あなたは、十二階へお登りなすったことがおありですか。ああ、おありなさらない。それは残念ですね。あれは一体、どこの魔法使いが建てましたものか、実に途方もない変てこれんな代物でございましたよ。」
(江戸川乱歩 「押絵と旅する男」 より)


細馬宏通 
『浅草十二階
― 塔の眺めと〈近代〉のまなざし』


青土社 
2001年6月8日 第1刷発行
2001年8月1日 第2刷発行
299p 口絵(折込)1葉
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,400円+税
装幀: 高麗隆彦



本書「あとがき」より:

「文学史のようでも写真史のようでも都市論のようでもあり、しかし、そのどれでもない、「十二階」としかいいようのないもの。浅草には不思議と、そのようなあてのない考えを揺らせている人間がふらふらするだけの隙間があって、浅草知らず、明治知らずという心の引け目はいつしか消え、かつてはひょうたん池だったJRAの場外馬券場の白壁のまわりをぐるぐる歩き、ひさご湯の湯船の中で白塗りを落としに来た木馬館の役者たちに囲まれ、演芸ホールでアサダ二世の投げるトランプカードの軌跡に見惚れているうちに、浅草の夜のにぎわいにまぎれていた石川啄木の話を書きたくなり、元『ユリイカ』編集人の須川善行氏に「凌雲閣のいただき」の話をしたところ、思いがけず連載という話になった。本書は、その『ユリイカ』に一九九九年二月から二〇〇〇年四月にかけて断続的に連載したものをもとにしているが、新たな調査資料を反映するべく、ほとんど原形をとどめぬほど大幅な加筆訂正を行った。書きたいことはなお数多くあるが、すべてを書き尽くすよりも、ほころびを残すのがこの本には似つかわしいと今は考えている。」


本文中図版(モノクロ)多数。
本書はだいぶまえに新刊書店で見かけたので買いましたが、のちに増補新版が出ているようです。


細馬宏通 浅草十二階 01


帯文:

「見上げること、見下ろすこと。

関東大震災で失われた
浅草凌雲閣、
通称「十二階」。
眼下に吉原を望み、
日本初のエレベーター、
百美人、戦争絵を擁し、
絵や写真となり、
見世物小屋、広告塔と
しても機能した
この塔の眺めが、
啄木や花袋らのまなざしをとらえ、
「近代」の欲望を体現する。」



帯背:

「帝都の
マルチ
メディア」



目次:

口上にかえて
 低さ
 反エッフェル塔的
 眺めという「パノラマ」
 都市論という「パノラマ」
 末遠いパノラマ
 パノラマから亀裂へ
第1階 塔の眺め
 大阪の凌雲閣
 塔の苦難
 浅草凌雲閣:十二階の登場
 エレベーターの誕生:電気力時代の幕開け
 電力供給
 十二階とひょうたん池
 エレペートル
 十二階の内容
 遠さではなく近さ
 指さすこと
第2階 十二階と風船
 もうひとつの上昇と眺望:風船乗りスペンサー
 風船=気球+落下傘
 ボールドウィン兄弟
 風船乗評判高閣(ふうせんのりうわさのたかどの)
 絵双六:上昇と眺望の遊び
第3階 人のまなざし・美人へのまなざし
 美人を覗く
 『押絵と旅する男』
 早すぎた電気力
 エレベーターから百美人へ
 反転するまなざし
 乾板写真、小川一眞、江崎禮二
 皆既日食とバルトン、一眞
 美人写真の落書き
 浅草という写場(うつしば)
第4階 塔とパノラマ
 パノラマの眺め・塔の眺め
 忘れられたメディア
 パノラマ=奥行きを生み出す体験
 絵と実物との境
 散らしおく事
 パノラマという臨場感
 両眼と単眼の詐術
 「ラマ」と「光線」
 塔の一望・パノラマの臨場感
第5階 舞姫と塔
 明治二三年、『舞姫』の年
 『舞姫』とパノラマ
 パノラマから塔へ
 塔からの覗き
 塔の物語
第6階 まなざしを要するもの
 専門家の冷淡
 地震と塔
 日本を見るまなざし
 第二の地震
 日清戦争実記
 凱旋と歓迎
 まなざしで成立するもの
第7階 覗かれる塔
 売り物としての景色
 「パノラマ写真」という間違い
 一人で見るパノラマ
 押絵と十二階
 皇帝(カイザー)パノラマ館
 皇帝パノラマ館からパノラマ館へ
第8階 眺められるだけの塔
 静かな塔
 高さの危うさ
 広告看板
 高みよりも活動
 広告塔
 仁丹塔
 田舎者の嘲笑
第9階 パノラマのような眺め
 戦死の研究
 戦場というパノラマ
 藤村の「活動」、花袋の「パノラマ」
第10階 塔というパノラマ
 客観と主観
 眼から脳に入る芸術
 耐へ忍ぶ
 指点される土地
 必要という真実
第11階 啄木の凌雲閣
 女を覗く男・男を覗く女
 乞ふ続々御飛降あらんことを
 飛び下(お)りかねき
 その顔その顔
 日記と腕組み
 高みからのまなざし
 都市の底
 まなざしを避けながら
 塔下苑―日記、いただき―歌
第12階 十二階という現在
 塔の黄昏
 五銭の行楽、十二階演芸館
 凌雲閣から十二階へ
 エレベーターの復活
 「女子供」のまなざし
 十二階爆破計画
 すっぽん茸
 眺められ続ける塔
 関東大震災

あとがき



細馬宏通 浅草十二階 02



◆本書より◆


「十二階と風船」より:

「凌雲閣こと浅草十二階が紹介されるときに、必ずといっていいほど使われる錦絵がある。
 「凌雲閣登覧寿語六(すごろく)」。絵師は三代歌川国貞。描かれたのは明治二三年、十二階が開業した年だ。
 この「凌雲閣登覧寿語六」を見ると、一人、気になる登場人物がいるのに気づく。
 落下傘につかまり、上空から悠然と紙吹雪をまいている男。その後ろには気球が浮かんでいる。シャガールの登場人物を思わせる夢のような図像だ。しかし、これは空想上の産物ではない。
 男は「風船乗りスペンサー」と呼ばれた。

 英国人スペンサーが、気球を用いて初めて東京の空を飛んだのは、奇しくも凌雲閣の開業式の翌日、明治二三年一一月一二日のことだ。
 気球の存在じたいは、当時すでに人々に知られていた。明治一〇年、築地で軍用軽気球の試験飛行が行われたからだ。
 しかし、スペンサーの演技は、単に気球に乗って舞い上がるだけではなかった。そのはるか空の高みから、傘を使って飛び下りるという大胆なものだった。その離れ業はすでに横浜や神戸で披露され、新聞には「風船飛下りの技」と報じられていた。」



「啄木の凌雲閣」より:

「浅草十二階の歌としてしばしば引用されるものが二つある。いずれも石川啄木の歌だ。

  浅草の凌雲閣(りょううんかく)にかけのぼり息がきれしに飛び下(お)りかねき

  浅草(あさくさ)の凌雲閣(りょううんかく)のいただきに
  腕組(うでく)みし日(ひ)の
  長(なが)き日記(にき)かな」

「事件は明治四二年三月一五日、啄木が例によって「塔下苑」こと十二階下をどこということもなく歩いた翌日に起こった。一六日、気乗りしないのをおすように朝日新聞社に出社した啄木は、おそらく以下の記事を校正係として読んだはずだ。

  ●凌雲閣より飛下る ▽十六歳の美しい少女 ▽口惜しい口惜しいで悶死
  ▲人出盛りの椿事
  晴天の十五日浅草公園六区は立錐の地なきまでの雑閙を極めたる午後三時半頃凌雲閣の南窓下札売場の庭に物凄き響きして落下したるものあるより素破こそと下足番は駆け出し見れば年頃十七八許りなる女の俯向きになり稍右横腹を下にして打臥せるにぞ驚いて抱起さんとせしが此時既に此物音を聞附け押し掛け来りし人波は直に此の女を取り巻きて口々に罵り合ひ騒ぎ立つるに下足番及巡視等は施すに策なく暫しは茫然たりし(後略) 

 凌雲閣からの飛び下り自殺。一六歳という少女の若さもあって、この事件は連日各紙で取りざたされた。原因は、実家との折り合いの悪さであるとも、直前に見た活動写真の悲劇に影響を受けたのだとも報じられたが、確たる証拠は挙がらなかった。
 じつはこの年、凌雲閣から飛び下りたのは彼女だけではない。
 すでに一月には、二六歳の男の投身があった。吉原の芸妓のもとに通い詰め、夫婦になれる見込みがないことに絶望した男は、親の貯金通帳を持ち出し、上野の博品館で自分の最後の姿を撮影し、翌朝凌雲閣に上り、一一階西南の窓から飛び降りたのだった。遺書は「凌雲閣にて不幸男」と結ばれていた。男の最後の写真は新聞に載った。
 二件の投身事件に影響されたのか、「十二階の頂上より身を投げ自殺する積りなれば先立つ不孝は御許しありたく」と書き置きを残して家出する少年まで現れた。この年、凌雲閣は投身の名所となった。
 投身が起こるということは、それを制止しようとする人の目が少ないこと、つまりは客が少ないことを示している。(中略)明治二三年に華々しく開館した凌雲閣も、この頃には人気を失いつつあった。」
「投身対策を論じる記事からはそうした塔のさびれ具合が伺える。凌雲閣はもはや、二百円ですら買い手がつかなくなっていた。」



細馬宏通 浅草十二階 03

皇帝パノラマ館。



江戸東京博物館:
「浅草公園凌雲閣登覧寿語六」

著者サイト(凌雲閣ペーパークラフトもあります):
浅草十二階計画











































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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