ヴァザーリ研究会 編 『ヴァザーリの芸術論』

「ヴァザーリはつねに習作というもののもついきいきとした味わいを、完成作よりも高く評価した。何故ならば、ヴァザーリにとって、創造の瞬間は、霊感をうけた預言者の状態にひとしいからである。研鑽を積んだ完成作は、その創造の神的な狂気の力を逃してしまうのである。」
(若桑みどり 「ヴァザーリの芸術論」 より)


『ヴァザーリの芸術論
― 「芸術家列伝」における
技法論と美学』

編: ヴァザーリ研究会
監修: 林達夫・摩寿意善郎
翻訳・註解・研究: 辻茂・高階秀爾・佐々木英也・若桑みどり・生田圓

平凡社 
1980年2月25日 初版第1刷発行
424p 口絵(カラー/モノクロ)2p 
四六判 並装(フランス表紙) 筒函 
定価3,200円
造本: 中垣信夫



本書「あとがき」より:

「本書は、十六世紀イタリアの建築家、画家、伝記作者、芸術理論家であったジォルジォ・ヴァザーリの『芸術家列伝』 Le Vite de' più eccellenti pittori scultori ed architettori の冒頭につけられた総序 Proemio alle tutte le opere と技法上の手引き Introduzione および第一部、第二部、第三部の序論 Proemio の全訳である。通称「技術論」と呼ばれるこの「手引き」の部分は、もちろん『芸術家列伝』全体の一部をなすものであるが、(中略)西欧の建築、彫刻、絵画の実際的な技法について多くの有用な知識を与えてくれることと、同時にまた、西欧における芸術理論の歴史の上で画期的意味を持つ「芸術文献」であるという点で、それだけでも充分に独立した一巻として刊行され得るだけの意義と内容とを持っている。」


本文中図版(モノクロ)多数。


ヴァザーリの芸術論 01


本書「刊行にあたって」より:

「「序論」は、(中略)明確に「歴史家」としての自覚を抱いていたヴァザーリが、自己の歴史観と、その歴史観を支える美学とを開陳したものにほかならない。それは「伝記」というかたちで壮大な「歴史」を語ったヴァザーリの、いわば美学的、歴史的マニフェストである。」
「しかし、それだけではない。(中略)それ自身独立したものとしてみても、ルネッサンス期の芸術観を伝えてくれる貴重な文献である。」
「同様のことは、(中略)いわゆる「芸術論」――ヴァザーリ自身の言葉で言えば、「三つのディセーニョの芸術への手引き」――についても言うことが出来よう。」
「それは建築、彫刻、絵画に関するルネサンス期の実際的な技法について、実に豊かな、有用な知識を与えてくれるからである。(中略)ここでは、彼は、もっぱら、製作現場の事情を熟知している実作者として語っている。したがって、そこで問題となるのは、(中略)実際的なこと、例えば建物のどのような部分にはどんな種類の石材を用いるか、そして、それを加工するには、どのような道具をどのように利用するかとか、ブロンズを鋳造するにはどうしたらよいかといったような、いわば現場からの直接の報告なのである。」
 


ヴァザーリの芸術論 02


目次:

刊行にあたって (ヴァザーリ研究会)

本文篇

 芸術家への献辞 (訳: 辻茂)
 総序 (訳: 辻茂)

 技法論
  建築について  (訳: 高階秀爾・若桑みどり)
   第一章 建築家にとって装飾のために、また彫刻では彫像制作に役立つさまざまの石について。
   第二章 無装飾の方形石材の仕事、および装飾彫り方形石材の仕事とは何か。
   第三章 建築の五つの柱式(オーダー)、ルスティカ式、ドーリス式、イオニア式、コリント式、コンポジット式。ならびにゴシック式について。
   第四章 型彫りしたコンクリート打ち穹窿(ヴォールト)の造り方。型枠を外した際のこと。ならびに漆喰(ストゥッコ)の練り方について。
   第五章 いかにして鍾乳石や、水から出る石灰質の凝固物を用いて野趣ある噴水を造るか。またストゥッコに紅貝や煉瓦などの塊りを填め込むには。
   第六章 モザイコ式の床の張り方について。
   第七章 すぐれた比例をもつ建物を見分けるにはどうすればよいか。また一般に、どのようにして部分を全体に調和させるべきか。
  彫刻について  (訳: 佐々木英也)
   第八章 彫刻とは何か、優れた彫刻はいかにしてつくられるべきか、また完璧な彫刻とみなされるためにはいかなる要件を備えていなければならないか。
   第九章 蝋や粘土による原型のつくり方。またいかに衣服を着けるか、ついでいかに比例正しく大理石像に拡大するか。いかに鑿や鏨を用い、磨きをかけ、軽石でこすり、光沢を出し、仕上げるか。
   第十章 浮彫と薄肉彫について。その製作の難しさ、ならびにいかにしてこれを完成させるか。
   第十一章 大小の彫像をブロンズで制作するためには、原型をいかにつくり、鋳造するための鋳型をいかにつくるか。鉄の心棒でいかに補強し、金属や三つの種類のブロンズをいかに鋳込むか。鋳造後いかに鏨を入れて表面をきれいにするか。また空隙が生じた際にいかに共金(ともがね)のブロンズを植えこんで継ぎ合わせるか。
   第十二章 ブロンズその他の金属でメダルをつくるための鋳型について。またメダルはこれらの金属や東方貴石やカメオでいかにしてつくられるか。
   第十三章 ストゥッコによる白い壁装飾はいかにしてつくられるか。壁に埋められる祖型のつくり方、またいかに仕事を進めてゆくか。
   第十四章 木彫像はいかにしてつくられるか、その制作にはいかなる木材が適しているか。
  絵画について  (訳: 辻茂・生田圓)
   第十五章 素描(ディセーニョ)とは何か。そして良き絵画とは、いかにして作られ、見分けられるのか。また、それは何によってか。さらに、物語画の構想(インヴェンツィオーネ)について。
   第十六章 粗描き、素描、カルトーネ、そして透視法の秩序について。それらが描かれるのは何のためで、何に対して画家たちはこれらを用うるのか。
   第十七章 仰視法による像の短縮法、ならびに水平位置からの短縮法について。
   第十八章 油絵、フレスコ、あるいはテンペラにおいて、色彩はいかにして統一されねばならないか。像がばらばらにならず、丸味と力を持ち、作品を輝かしく広がりを持たせるためには、肉体、衣服、そのほか描かれるすべては、作品においていかに統一されねばならないか。
   第十九章 壁に描くにはどうするか。なにゆえにフレスコ画法と呼ばれるか。
   第二十章 板またはカンヴァスにテンペラあるいは卵で描くには。またそれは乾いた壁にいかように用いられるか。
   第二十一章 板およびカンヴァスに油彩で描くには。
   第二十二章 乾いた壁に油彩で描くには。
   第二十三章 カンヴァスに油彩で描くには。
   第二十四章 石に油彩で描くには。またどんな石が適しているか。
   第二十五章 さまざまの陶土(テルレッタ)で壁に単彩画(キアロスクーロ)を描くには、またいかにしてブロンズ彫刻そっくりに描くか。グァッツォとかテンペラと呼ばれている、陶土を膠で溶いて描くアーチや祭のための物語画について
   第二十六章 建物に施されて水に強い引っ掻き絵(ズグラッフィート)について。それを作るのに用いられるもの。壁のグロテスク装飾はいかにして施されるか。
   第二十七章 いかにしてグロテスク装飾をストゥッコに施すか。
   第二十八章 ボーロやモルデンテを用いて金を置く方法、およびその他の方法について。
   第二十九章 ガラスのモザイコについて。また、良くかつ称賛に値するモザイコをどこで識別するか。
   第三十章 単彩画に似せて床にモザイコで作られる物語画や人物像について。
   第三十一章 木のモザイコ、すなわち寄木細工について。また彩色された木を絵画に似せて寄せ合わせて作る物語画について。
   第三十二章 ガラスの窓を絵に仕上げる法。そしてこの焼絵ガラスの窓を、鉛を用いて、しかも画像を損なうことなしに支え留めの鉄を使って仕上げるにはどうするか。
   第三十三章 ニエロについて。銅版画はそれからいかにして生まれたか。薄肉彫の七宝細工を作るためにいかにして銀を彫るか。また、大型の金銀細工にいかにして線彫りをするか。
   第三十四章 象嵌(タウシア)すなわちダマスコス風細工について。
   第三十五章 木版画について。その作り方と、その最初の発明家について。そして、三つの摺りで版画を作って素描したように見せ、光、中間調、陰を示すのにはどうするか。

 第一部序論  (訳: 高階秀爾)
 第二部序論  (訳: 佐々木英也)
 第三部序論  (訳: 若桑みどり)

 訳註

研究篇

 『芸術家列伝』の近代の諸版について (辻茂)
 イタリアにおける技法論の系譜とヴァザーリの歴史的意義 (高階秀爾)
 ヴァザーリの芸術論――第三部序論を中心として (若桑みどり)
 ジォルジォ・ヴァザーリ小伝 (佐々木英也)
 ジォルジォ・ヴァザーリ年譜 (生田圓)
 参考文献 (生田圓)

あとがき (ヴァザーリ研究会)
索引



ヴァザーリの芸術論 03



◆本書より◆


「建築について」より:

「古代の人々が彼らの宮殿や庭園やその他のところに造った噴水は、石盃やその他の種類の壺などを用いて単独に造られていたり、壁龕や仮面や人像や海に棲むものたちの装飾意匠を用いて壁に寄せかけて造られたり、あるいは浴室用のもっと簡単で飾り気の無いものもあり、最後には森から自然に湧き出ている野の泉に似せて造られるものもあったりで、さまざまな手法で造られていたのだが、近代の人々が今までに造ってきたり今なお造っている泉もまたこれと同じく多種多様である。その上近代の人々は、古代のものに絶えず変化を加え、冷たくて石灰分の多いところで、永い年月の間に水の凝固物から出来、太い根のように垂れ下っている鍾乳石で覆った、トスカーナ式の噴水を、古代人の工夫の上に更に付け加えたのである。例えば、ティヴォリでは、(中略)それを石の中に吊り下がるように植え込み、その周りにはトスカーナ式の石積みで壁を造り、ところどころそれが見えるようにする。それから、壁の間にこっそりと鉛の筒を配置し、そこここに孔を開け、さきに述べた管の根元の蛇口をひねると、水が噴き出すようにする。このようにしてさまざまな具合いに水が噴き出るように水路を作り、これらの鍾乳石を浸み透って水が滴り落ちるようにするが、その際その水の滴りは耳に優しく、目に美しいようにする。
 同じ遣り方で、もう一つ、自然そのままの泉を完全に模造してしまうことによって、いっそう野趣豊かな別種の洞窟(グロッタ)を作ることもできる。それには多孔質の石をいくつか組み合わせて、その上に草を生えさせるのだが、その草はいかにも無秩序に、作為なく秩序づけられていなければならない。そうすれば大層自然らしく、より一層ほんものらしくなる。」



「絵画について」より:

「われわれの三つの芸術、すなわち、建築・彫刻・絵画の父である素描(ディセーニョ)は、知力に導かれながら、その尺度において唯一無二の自然のよろずの物の形式あるいは観念(イデア)に似た、一つの普遍的判断を、多くの物からひき出すのである。それがために、人間や動物の体のみでなく、さらに植物においても、また建物や彫刻や絵画においても、全体が諸部分とのあいだに、また諸部分が互いのあいだや全体とのあいだに持つ比例というのを、それ(ディセーニョ)は認識する。さらに、この認識から、ある種の着想や判断が生まれ、頭のうちでそれが形をなし、ついで手によって表わされることになるものを素描(ディセーニョ)と呼ぶ。したがって、この素描(ディセーニョ)とは、以上のようにして心のうちに生じた着想、また他のばあい、頭のうちで想像し、観念の中でつくり上げた着想を、外に表出し明確化したものにほかならないと結論できる。そして、このことから、たまたま、「爪でライオンを知る」というギリシア人の諺が生まれたのである。すなわち、かの有能な男が、岩にライオンの爪跡だけが残されているのを見て、知力によってその寸法と形から、この動物の全身におよぶ各部と、さらにその全体像を、あたかも目の前にしているかのように理解しえたというのである。」

「グロテスクとは壁面の装飾のために古代の人たちによって作り出された一種のきわめて放縦で奇妙な絵画であり、ある種の箇所では幻想的に描かれたものだけしか適しなかった。この装飾のために彼らは造化の悪戯や作家たちの気まぐれ、あるいは思い付きによってありとあらゆる奇形の怪物を作り上げた。すなわち作家たちはグロテスク装飾ではいかなる規則にもとらわれずに、支えられないような重いものを極めて細い糸に吊したり、馬には木の葉の脚を、人間には鶴の脚をつけたりして、数限りない珍奇なものや得体の知れないものを作っている。したがって想像力がより奇異に働く人が、より優れているとされた。やがてグロテスクの装飾は規則化し、フリーズや壁面の仕切りのための非常に素晴らしい手立てとなった。」



「第三部序論」より:

「さらにディセーニョとは、絵画と彫刻の、あらゆる形象に、自然のなかのもっとも美しいものを再現することである。この業は、眼に見えるすべてのものを、図面であれ、素描であれ、板絵であれ、あるいはその他のどんな面の上であれ、ともかく眼で見たすべてのものをこの上もなく正確に一つの面の上に写生するという手練と才能とを持つことによって得ることができるのである。(中略)さて終わりに様式(マニエーラ)だが、これは、最も美しいものを、たえず写生することによって、また、最も美しい手や、頭部や、体や脚などを一つにつなぎ合わせて、可能なかぎりこれらのあらゆる美を具有した一つの人体を作り出し、これをすべての作品、すべての人物に応用することによって最も美しい様式となった。まさにこのために人はそれを美しき様式(ベルラ・マニエーラ)と呼んでいる。」

















































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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