種村季弘 『好物漫遊記』 (ちくま文庫)

「子供の頃からいつも悪い状況にさしかかると、不器用に悪い方へ悪い方へとのめり込んでいく性質だったものな、という思いがかすめる。それを我慢している陰気な愉しみともいうべきものが身についてしまっているような気もする。」
(種村季弘 「月島もんじゃ考」 より)


種村季弘 
『好物漫遊記』

ちくま文庫 た-1-10

筑摩書房 
1992年9月24日第1刷発行
2010年10月20日第2刷発行
222p 
文庫判 並装 カバー 
定価740円+税
装幀・カバーデザイン: 安野光雅


「この作品は、1985年12月10日、筑摩書房より刊行された。」



本書「あとがき」より:

「かりにも漫遊記と銘うって書き出すと、先の副将軍ならぬ身にはタイトル負けがしてどうしても固くなってしまう。そこでとりあえずは通しタイトル『好物万華鏡』ときめて、「ブルータス」号で船出をした。一九八三年七月のことである。それから一年間の連載期間に、あらかじめ『好物漫遊記』のつもりで船出した擬装航海は、モザイク状といえば聞こえはいいが、ありようは行きあたりばったりに行きつ戻りつ右往左往して、げんに見るような姿に行きついていた。
 中身は舞踏会の手帖風の再訪記もあれば、展覧会や博物館見物、サーカスの細見記もある。まだ現在完了形で続いている過去もあって、かならずしも戦後世界の私的回想とはいえないけれども、大まかにいえばやはり戦後四十年が舞台にはちがいない。そこで発表誌は異なるが、前後に「蝙蝠傘の使い方」と「贋作三浦老人昔語り・戦後篇」を配して一巻を編んだ。」



種村季弘 好物漫遊記


カバー裏文:

「コーモリ傘、ブランコ、そして映画に芝居、紙相撲に化物屋敷。見なれた物がいつのまにか別の世界への案内者になってゆく不思議。駅、そして港の眺めから蘇る怪しい過去の時間。とめどなく酒を飲む男はどこに行ったのか? 酔った朝見た白々とした光景はどこだったのか? 出会った物や人たちがしだいに「好きな物」「このみの風景」に変容してゆく感覚と文章のマジックの世界。」


目次:

1 蝙蝠傘の使い方
2 月光天文台の方
3 月島もんじゃ考
4 ああ乞食バクチ
5 天国と地獄
6 恐怖! ラドン鉱泉
7 盃底の舞妓
8 大阪バロック症候群
9 オキュパイド・ジャパン
10 朝のアリヤ少年団
11 鞄の中身
12 チーカマ放浪記
13 サンシャインの人穴
14 化け物屋敷探検記
15 盗みのみ免許皆伝
16 相対性理論極意
17 李白一斗詩百篇
18 フリークス時代
19 野良犬飼育法
20 ロココのブランコ
21 サーカス大小物語
22 市電恋しや
23 黄金の中央沿線
番外 贋作三浦老人昔語り・戦後篇

あとがき

解説 怪人の独白を読む (赤瀬川原平)




◆本書より◆


「サーカス大小物語」より:

「それにしても、サーカスならどれもこれもが驚異の至芸を見せてくれるわけではない。言い忘れたが、ザラザーニを見てから数日後に、今度はヴォルプスヴェーデ村の丘上にやってきたイタリア人一家のサーカス小屋を見たのである。
 涙の出るほどわびしい一座だった。モギリの小さな女の子が幕間になるとキャンディー売りに変身する。ベルが鳴るとあわてて引っ込んで、今度はラマや犬の動物芸を見せる。騾馬(らば)がドタバタ駆けずり回る。すると、ちょっとしたダイニング・キッチン程のグラウンドなので、観客はもろに砂埃をかぶってまっ黄色になってしまう。
 装置も小道具も、衣裳らしい衣裳もない。楽隊席に家族全員がかたまって、ワインをラッパ飲みしているうちに出番が来て、しぶしぶワインを手放した座員がそこからごく自然にごろごろと転げ出てくるのである。
 観客がまた輪をかけてわびしい。村の鼻たれ小僧が五、六人、百姓爺さんが二、三人、ぱらりとゴマシオをふったように散らばっている。それもサーカスよりは、珍景な東洋人たるこちとらの方に目をくばるのにいそがしい。
 ザラザーニのような大サーカスが大型漁網でさらっていったあとの落ちこぼれの観客を、落ちこぼれサーカス芸人たちが大真面目に、しかも至極のんびりと拾い集めているのである。
 ここが済んだら、また行き当たりばったりのどこかへ迷い込んで、そこの落ちこぼれを拾えばいい。そんな悠然と流れる小川のような表情がいっそ不敵な面構えに思えたりするのだえる。
 二、三日してから丘の上に散歩に出ると、天幕はきれいにとり片づけられていた。それでも一行はまだいると見えて、ヤクやラマがそこらで草を食んでいる。
 ふと人の気配があるので眼を上げると、樹の上にキャンディーを売っていた女の子がいた。珍景な東洋人をおぼえていたか、目が合うとニヤッと笑った。それからすばやく樹を降りると、魔法にかかったように草叢の間にふっと消えていた。
 ザラザーニをもう一度見たい。クニーやバールムにもいつか一度はお目にかかりたい。けれどいま何が見たいかといえば、一も二もなく、世にもしがない世界最小のイタリア人一座だという気がする。」









































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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