馬場あき子 『鬼の研究』 (ちくま文庫)

「それにしても、鬼とは群聚するものであろうか。どうもそうではなさそうな気がする。(中略)その心は「鬼哭」の語の存するのをみてもわかるとおり、孤独な切迫感がみちている。その祀られず慰められなかった死者の心は飢えており、飢えが或る時、怨みや憤りに転化しないものではない。その飢えはさまざまで、けっして他と同じくしうるものではないゆえに、鬼はつねに孤独であり、時には孤高でさえあるのだ。」
(馬場あき子 『鬼の研究』 より)


馬場あき子 
『鬼の研究』

ちくま文庫 は-9-1 

筑摩書房 
1988年12月1日 第1刷発行
1989年5月25日 第3刷発行
300p 
文庫判 並装 カバー 
定価580円
装幀: 安野光雅
写真: 吉越立雄
カバー写真: 吉越立雄「石橋」


「この作品は1971年6月30日、三一書房より刊行された。」



馬場あき子 鬼の研究 01


カバー裏文:

「かつて都大路を百鬼夜行し、一つ目、天狗、こぶ取りの鬼族が世間狭しと跳梁し、また鬼とならざるを得なかった女たちがいた。鬼は滅んだのだろうか。いまも、この複雑怪奇な社会機構と人間関係の中から、鬼哭の声が聞こえはしないか。日本の歴史の暗部に生滅した〈オニ〉の情念とエネルギーを、芸能、文学、歴史を渉猟しつつ、独自の視点からとらえなおし、あらためてその哲学を問う名篇。」


目次:

序章 鬼とは何か
一章 鬼の誕生
 1 鬼と女は人に見えぬぞよき
    「虫めづる姫君」の慨歎
    籠れる鬼の重之妹
    四条宮筑前の君
    『倭名類聚鈔』の見解
 2 〈おに〉と鬼の出会い
    鬼・神同義説
    鬼と日本の〈おに〉
    鬼の面貌
    西行人を造る
 3 造型化のなかの鬼
    〈おに〉の訓を得た〈鬼〉字
    造型化される鬼
    『山海経』は影響したか
二章 鬼を見た人びとの証言
 1 鬼に喰われた人びと
    阿用の一つ目鬼
    初夜の床に喰われた女
    あぜ倉に喰われた業平の思い人
    武徳殿松原に喰われた女
    官の朝庁で喰われた弁官
 2 鬼の幻影
    幽霊と鬼
    鬼の足跡と衣冠の幻
    征箭の調伏
 3 百鬼夜行を見た人びと
    一条桟敷鬼のこと
    百鬼夜行とは
    常行・師輔鬼に遇う
    泉寺の修行者鬼に遇う
    瘤取りの鬼
 4 牛頭鬼と羅刹女と地獄卒
    牛頭鬼による殺害事件
    羅刹に出逢う
    鳩槃荼鬼の描写
    世を歩く地獄卒
 5 衰弱する〈ぬし〉の系譜の鬼
    〈ぬし〉とは何か
    家霊としての〈ぬし〉
    左大臣融の霊鬼
    人なき家屋に棲む〈ぬし〉の鬼
    鬼をよせつけぬ心とは
    冷泉院の水の精の翁
 6 完成にむかう鬼の典型
    羅生門の鬼
    鬼の出現する場所
    「肝だめし型」から「武勇譚型」へ
    切断される老母の手
    武勇者と美女
    他界との問答と絆を切る剣
三章 王朝の暗黒部に生きた鬼
 1 鬼として生きた盗賊の理由
    童子を名のる大江山の鬼
    二つの大江山と酒呑童子
    山拠の生活をもった人びと
    王朝暗黒社会の不可解性
    鈴鹿御前立烏帽子
    鬼使い千万
    鈴鹿御前の問題点
    悪路王叛乱と鈴鹿の鬼
    鬼の拠点としての鈴鹿山・関山
    戸隠の鬼女
    女盗人のものがたり
    鬼族としての盗人魂
    鬼として生きた特殊階級の人びと
    平六の社会復帰
 2 土蜘蛛の衰亡と復讐
    土蜘蛛誅殺と先住権
    土蜘蛛の復讐
 3 雷電と鬼
    日本の神と雷電
    雷電と鬼
    菅公の御霊としての雷電
 4 鬼の心と呪術の世界
    生きながら鬼となること
    愛の変節を責める女の鬼
    六条御息所と羞恥の鬼
    砧の怨みと鬼ごころ
    恋の鬼葛城上人
    鬼つかいと外術
四章 天狗への憧れと期待
 1 幻の大会(だいえ)
    天狗幻術の「大会」
    天狗幻術は作用したか
 2 天狗と飛行空間
    天狗の星
    天狗と神仙思想
    鬼の〈あはれ〉と天狗の〈をかし〉
    花月少年と天狗思想
 3 無道の智者
    無道の智者としての天狗像
    猿田彦とベシミの面
    迫害される天狗
    天狗説話の成長と展開
    姿なき風雅
 4 天狗山伏
    山伏と天狗
五章 極限を生きた中世の鬼
 1 中世破滅型の典型としての般若
    小面と般若
    半蛇と般若
 2 空無の凄絶をもった美―「黒塚」考
    黒塚歌話と鬼
    シカミ「黒塚」と般若「黒塚」
    「黒塚」の美学
 3 白練(しろねり)般若
    〈真〉の般若六条御息所
    般若の〈艶〉と〈怨〉
    般若の悟り
 4 一言主の愁訴と棄民山姥
    一言主の愁訴
    山に棲む遊女
    山に棲む鬼女山姥
    山姥の哲学
終章 鬼は滅びたか――あとがきにかえて

解説 有情の極みとしての鬼 (谷川健一)



馬場あき子 鬼の研究 02



◆本書より◆


「鬼とは何か。鬼の範疇にはなお未確認の部分が多く残っている。いま、鬼の系譜をかんたんに分類してみると、それは(1)に日本民俗学上の鬼(祝福にくる祖霊や地霊)を最古の原像としてあげることができる。さらには、(2)この系譜につらなる山人系の人びとが道教や仏教をとり入れて修験道を創成したとき、組織的にも巨大な発達をとげてゆく山伏系の鬼、天狗が活躍する。(3)別系としては仏教系の邪鬼、夜叉、羅刹の出没、地獄卒、牛頭(ごず)、馬頭鬼(めずき)の跋扈も人びとをおそれさせた。以上は神道系、修験道系、仏教系の鬼であるが、これとまったく別種の生活哲学に生きた鬼の族があったことを考えねばならない。(4)人鬼系といおうか、放逐者、賤民、盗賊などで、彼らはそれぞれの人生体験の後にみずから鬼となった者であり、兇悪な無用者の系譜のなかで、前記三系譜の鬼とも微妙なかかわりあいを見せている。(5)ついでは変身譚系とも名づくべき鬼で、その鬼への変貌の契機は、怨恨・憤怒・雪辱、さまざまであるが、その情念をエネルギーとして復讐をとげるために鬼となることをえらんだものである。」
「現代に〈鬼〉は作用しうるか。近世にいたって鬼は滅びた。苛酷な封建幕藩体制は、鬼の出現をさえ許さなかったのである。そこでは、鬼は放逐される運命を負うことによってのみ農耕行事の祭りに生き、折伏され、誅殺されることによってのみ舞台芸術の世界に存在が許された。(中略)その本来的エネルギーも圧殺寸前の状態となっている現在、最後の叫びを上げているような〈鬼〉のすがたに、私は限りない哀れを覚える。それとともに、機械化の激流の中で、衰弱してゆくほかない反逆の魂の危機を感ずる。〈日常〉という、この実りすぎた飽和様式のなかで、眠りこけようとするものを醒すべく、ふしぎに〈鬼〉は訴えやまないからである。」





こちらもご参照下さい:

谷川健一 『魔の系譜』
『夜想 10 特集: 怪物・畸型』
































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