アルフレート・クービン 『対極』 野村太郎 訳 (新装版)

「造物主(デミウルゴス)は半陰陽だ」
(アルフレート・クービン 『対極』 より)


アルフレート・クービン 
『対極
― デーモンの幻想』 
野村太郎 訳


法政大学出版局 
1971年3月30日 初版1刷
1985年3月8日 新装版1刷
371p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価1,900円



本書「訳者あとがき」より:

「この翻訳の原本は、Alfred Kubin: Die andere Seite; Nymphenburger Verlagshandlung, München, 1968 です。
 原題名の『ディ・アンデレ・ザイテ』は、「他の側面」というほどの意味ですが、この小説のエピローグ――とくに結語の「造物主(デミウルゴス)は半陰陽だ」にちなんで『対極』としました。また副題の「デーモンの幻想」というのは、著者の僚友であった画家カンディンスキーの、この小説にたいする評言からとったものです。
 クービン(一八七七―一九五九)は、北ボヘミア生まれのオーストリアの画家です。」
「一九〇八年に出版されたのがこの小説で、これは後にも先にもクービンのただ一冊の小説です。自伝によると、この小説を彼は十二週間で書き上げ、四週間かかって挿絵を入れたということです。」



挿絵50点。後ろ見返しに「ペルレ市見取り図」。


クービン 対極 01


カバーそで「あらすじ」:

「ジンギス・カンの末裔である碧眼の種族が隠れ棲む天山山脈の麓に、ひそかに建設された「夢の国」――現代文明に安住できず、その進歩から取り残された精神的・肉体的な疎外者を住民とするこの国の首都ペルレでは、人びとはヨーロッパ各地から運んできた前世紀の廃屋や遺物の中で時代遅れの衣裳を着、独特の奇習に閉じこもって暮らしている。外界との交流を厳重に規制するこの国の建設者パーテラは、謎の力によって人びとの身も心も呪縛している至上の支配者で、彼の一顰一笑はそのまま、暗黙のうちに人びとの運命を左右する。彼の内面の絶望と苦悩を反映するかのように、ペルレの空には陽も月もなく、低く垂れこめた雲の下に、限りなく単調な灰色の世界がひろがっている。
 パーテラの幼馴染である物語の語り手「ぼく」は、ミュンヘンに住む挿絵画家であるが、ある日、突然訪ねてきたパーテラの使者から、この国への招待状と十万マルクの旅費を贈られる。「ぼく」は、芸術家にもちまえの好奇心からこの招待に応じ、妻とともに、黒海とカスピ海を渡る長途の汽車の旅を経て、ペルレに到着する(第一部 呼び声)。
 「ぼく」はパーテラの風変りな創造物と、夢の市民の奇態な日常生活に好奇の目をみはるが、やがて次第に、この国を支配する運命に巻き込まれ、呪縛に捉えられる。愛の美食家ブレンデル男爵、快楽主義の軍人ド・ヌミ、醜怪な手を持つ同業の画家カストリンギウス、肥満した医師ランペンボーゲンとその奔放な妻メリッタ、哲人床屋とその助手の猿のショヴァンニ、亡命の皇女X老嬢、シラミの研究に血道をあげるコルントイル老教授などなどの変人奇人が、「ぼく」の交友範囲に集ま(つづく)」

「って、それぞれ呪われた運命を分与する。「ぼく」の妻は、病弱な心身に痛手を受けて死ぬ(第二部 ペルレ)。
 やがて、アメリカの億万長者ベルが移住してくるにおよんで、この国の没落が始まる。ベルはパーテラの敵対者として、人びとに自由と進歩を約束する。しかし彼が無頼漢を集めて革命を起そうとするや、ペルレに嗜眠病が流行する。そして人びとがふたたび目をさましたとき、ペルレは動物の天国になっている。猛獣や毒蛇が跳梁し、イナゴやアリがはびこり、家畜も野性に還って人びとに襲いかかる。と同時に、家、家具、衣服、食料などあらゆる物質に原因不明の内部崩壊が始まり、死の恐怖がひろがる。突如として人びとは肉の欲望に燃え、殺戮と破壊の血をたぎらせる。哲人床屋は倫理を説いて吊され、医者は食料をごまかして串焼きにされる。その妻メリッタは犬と共寝してその餌食になり、彼女を愛したブレンデルは発狂して恋人の蛆の湧いた首を抱いて果てる。同業の画家は夜盗に成り下って死に、老教授は絶望して入水自殺する。狂気はとめるすべもなく、ついにペルレは火の海と化し、言語を絶する地獄絵図の中で倒壊する(第三部 夢の国の没落)。――外部の世界からロシア軍が進駐してきたとき、瓦礫の山と化したペルレに生存していたのは、「ぼく」とベルとX皇女のほか数人に過ぎなかった。外の世界の人びとは、そこに夢の国があったことも、ベルが投石で倒した宿敵パーテラが、実は呪いのこもる蝋人形であったことも、だれも信じようとしなかった――。」




◆本書より◆


「ぼくは再び河の岸辺への夜の散歩を始めた。波が、無数の貝やサンゴや巻貝や漁具や鱗を、岸辺に打上げていた。ぼくはそこに海の動物の残骸もあるのに気がついて驚いた。岸辺は、神秘的な記号で一面に覆われているように見えた。――あの青い目の種族なら、これらの象徴的な記号を解読できるだろうと、ぼくは思った。たしかにこれらの記号には多くの謎がある。さまざまな美しい昆虫や蛾や甲虫にも、忘れられた文字の名残りがあるのだろう。残念ながら、ぼくにはそれを解く手がかりはなかった。」


クービン 対極 02


クービン 対極 03


クービン 対極 04


クービン 対極 05


クービン 対極 06



こちらもご参照下さい:

野村太郎 編集・解説 『クービンの素描』
種村季弘 『失楽園測量地図』
池内紀 編訳 『ホフマン短篇集』 (岩波文庫)














































































































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